食事の回数からすると、手代木が牢に入ってから、三日経った。
看守の隙を狙って、鍵を奪い牢を抜けようとしていたが、なかなかその機会が無かった。
牢の出入り口が開き誰かが連れて来られた。
「とっとと歩け!」
手を後ろで縛られた男が入って来た。
手代木は彼を見た時、声を上げそうになった。
新聞記者の水島だった。
彼と目が合ったとき、彼も驚いた顔を一瞬したが、知らん顔して騒ぎ立てた。
彼は隣の牢に入れられた。
水島を連れて来た男は、看守の男に何か言うと一緒に出て行った。
水島が話しかけてきた。
「手代木さん。
なんでここに居るんですか?」
「いろいろあってな…」
手代木は内務卿暗殺に失敗したとは言えなかった。
「妹さんがこの屋敷内に居ますよ。
私が後をつけてきたから間違いないです。
これで、寺子屋つぶしと、裏で糸を引く土岐商会が繋がりました」
「おい、妹はどこに居るんだ」
「この屋敷内に居ると思いますけど、分かりません」
「何とかして脱出しないとな。
水島さん。
何かいい方法は無いのか?」
考えていた水島が話しかけてきた。
「手代木さん。
妹さんが捕まったのは知らなかったんですよね?」
「あぁ。
今、初めて聞いた」
「それなら、土岐は手代木さんと交渉するのにここにくるはずです。
その時が逃げ出すチャンスです」
手代木は水島と脱出について打ち合わせた。
一時間位経って、看守が入って来た。
彼は手代木ではなく、水島の牢の前に立った。
「水島。
話があるから出ろ」
水島は看守に連れられ出た。
彼が手代木の牢の前に来たとき、彼は看守を突き飛ばして、牢の格子に押し付けた。
手代木は格子の間から腕を出して、看守の首を絞めて落とした。
水島は看守から鍵を奪って、手代木の牢を開けた。
水島が言った。
「さあ、逃げましょう」
手代木と水島は牢の入り口の脇にあった木刀を武器にした。
「俺はとりあえず妹を見つける。
君は逃げ…」
手代木が言い切らないうちに水島が言った。
「私も妹さんを見つけるのに協力しますよ。
逃げるのはそれからです」
「分かった」
二人は地下から一階へと上がって行った。
一階の廊下を進んでいくと、曲がり門に来た。
その角から廊下を覗くと見張りが歩いて来た。
彼らは身近な部屋に入った。
暗かったが、目が慣れてくると、そこは武器庫の様だった。
水島は目を輝かせた。
「色々、弾薬がありますよ。
暴れてやります!」
水島は爆弾を懐に入れた。
再び、部屋の扉を開けて廊下を見ると、誰も居なかった。
二人は部屋を出て廊下を進んだ。
何回目かの角に来たとき、先を覗くと見張りが動かずにいる部屋が見えた。
「あそこ居ると思う」
水島が言った。
「私が見張りを誘き出すからその隙に、妹さんを助け出してください」
水島がわざと見張りに向かって姿を出した。
見張りは声を上げて仲間を呼びながら水島を追いかけて行った。
手代木は見張りが去った後の部屋の扉を開けた。
中には奥に椅子に座った妹と3人の浪人がいた。
入って来た手代木を見て妹が叫んだ。
「お兄さま」
家具の陰にいた首藤が妹の脇に立ち命令した。
「そいつをやってしまえ」
浪人達は刀を抜いて手代木を取り囲んだ。
手代木は木刀を構えた。
一人浪人が襲って来た。
手代木は刀をかわすと木刀で打った。
浪人は悶絶して倒れた。
残りの二人は顔を見合わせて、一緒に襲いかかった。
手代木はそれをスルスルとかわし腹と背中に木刀を入れた。
バタバタと二人が倒れた。