維新なんてクソ食らえ後始末が大変でしょ、手代木の巻き

影山が御者に斬りつけた。


手代木は馬車の扉を開けた。


中には等身大の藁人形が置いてあった。


「頭。

やられた。

罠だ」


手代木はそう叫んだ影山に逃げるように合図した。


後ろから、馬に乗った追っ手が剣を抜いて近づいてきた。


影山がそれを見て叫んだ。


「引け!

引け!

逃げろ」


手代木は影山と一緒に林に逃げ込んだ。
後ろから、五、六人の軍服姿の兵士が追いかけてきた。


「撃て」


の合図が後ろから聞こえた。


玉が二人をかすめていった。


「うっ」


影山に当たったようだった。


影山が肩を押さえた。


押さえた手の間から血がにじんでいた。

「影山。

大丈夫か」


影山は痛みをこらえていた。


「手代木さん。

先に逃げてくれ」


「馬鹿を言うな」


兵士が五人ほど追いついてきた。そして、彼らを取り囲んだ。


じりじりと彼らの囲みを小さくした。


手代木の斬撃がうなった。


兵士達はその場にバタバタと倒れた。


手代木は影山に肩を貸した。


「これで、しばらくは持つだろう。

どこか隠れるところはないのか」

別な兵士が向かっている様だ。


「林を出たすぐの所に知り合いの屋敷がある」

と、影山が言った。

「わかった。

気を確かに持て」


手代木は影山に肩を貸して、支えられながら林を抜けた。
林を抜けると、影山が言うように高い塀に囲まれた屋敷があった。


「右に行くと裏口があるんだ」


影山に言われるように進んで行くと裏口の出入り口があった。


影山は手代木から肩を外すと、戸を叩いた。


間もなく、扉が開き、老人が顔を出した。


「影山だ。

中に入れてくれ」


言い終わらうちに影山は、半ば強引に中に入って行った。


「だ、旦那。

困ります」


「手代木さん。

早く入ってください」


手代木は影山に促されて中に入った。
塀の中には西洋風の建物が立っていた。


影山は建物の中へとずんずん入って行った。


手代木はその後ろについて行った。


物腰の優しい執事が出てきた。


「首藤さん。

ご主人はいるか。

話があるんだ」


執事は影山の傷を見た。


「影山さま。

まずは傷の手当てをしてからにしませんと」


執事の首藤は影山と手代木を小部屋に連れて行き、召使いに傷の手当てをさせた。
怪我の手当てが済んだ頃、首藤が戻ってきた。


首藤は主人の待つ奥の部屋へと案内した。


部屋には、主人と体格のよいボディガードがいた。


影山が主人の土岐に言った。


「暗殺は失敗した。
襲った馬車は空だった。

わら人形を置いていたり、軍が出てきてところからして、誰か内通者がいたに違いない」


土岐と首藤は報告をジッと聞いていた。


土岐が尋ねた


「失敗ですか。

仲間はどうなりました?」


「かなり銃声が続けてあったから、殆どやられたと思う」


「もし、捕まった奴がいたとして、私のことまでは来ないんだろうな」
影山は慌て言った。


「それは無い。

裏であんたらが動いていることは誰にも教えなかった。

口を割ったとしても俺までだ。

お互いに、符丁で呼んでいたから、調べるにも時間がかかると思う」



「それなら、いいだろう」


と、土岐は頷いた。

「首藤。

軍に手を回してどこまで奴らが分かっているか調べろ。

後のことはそれからだ」
土岐が手代木を見て影山に聞いた。


「そちらの方は」


「この前、話していた京都見回組の組頭だった手代木さんです」


土岐が疑いの目で手代木を見た。


影山がとりなした。


「この人は大丈夫だ裏切りはしない」


「あなたが手代木さんか。

私は土岐です」


「ハァ。

手代木です。

土岐というと土岐商会の関係者ですか」


土岐はハハと軽く笑った。


「関係というより、社長をしていますよ」


手代木は室内を見渡しながら言った。


「すると、ここは土岐商会の建物なんですね」


「まあ、そんなところだよ。

本当に、影山から今まで何も教えられなかったのだね。

そういえば、妹さんが大変だそうだね。
私がいい医者を紹介してあげようか?」

手代木が黙っていると、土岐は言った。


「手代木さんを奥の座敷にお連れして」

「はい」


手代木は召使いに連れられて部屋を出た。


扉が閉まった。


手代木が数歩歩き始めたとき、扉の向こう側から影山の悲鳴が聞こえた。


手代木が扉に手をかけようとすると、召使いが後ろから手代木を掴んだ。


「手代木様、お止め下さい。

開けたらあなたも処分されますよ。

あの部屋からあなたを出したのは、主人の恩情なのです

ここで命を落としてもよろしいのですか?」


手代木は我に帰った。


服に返り血を浴びた首藤が出てきた。