水島は言い過ぎてしまったという顔をした。
「へぇー」
手代木はため息混じりに息を吐いた。
ついでに、代理屋のことを聞こうと思ったが、また、取材とかされると面倒なので止めた。
水島はそんなことを考えているとも知らず、下町で起きている事件のことをしゃべった。
林での腕試しの数日後、影山から連絡があった。
彼かの連絡はいつも突然にある。
いよいよ、内務卿の暗殺日が近いのだろう。
手代木は刀を持って家を出た。
妹はまた調子が悪くなって寝込んでいる。
寝ている顔を見てから、静かに障子を閉めて出た。
妹から説教されてから出かけるよりはマシだ。
この前、腕前を試された森の中の粗末な庵が打ち合わせ場所になっていた。
手代木が着いても、まだ打ち合わせは始まらなかった。
30分ほどしてからこの前の浪人が入って来た。
皆、覆面しているし、通称で呼んでいるので本名は分からない。
メンバーが揃ったようだった影山が話し出した。
影山は軽く咳払いすると前に立つた。
「揃ったようなので、これから、襲撃計画を話し合いたい」
影山は抱えていた地図を広げた。
「三日後の夜、奴は迎賓館から自宅に直接戻るという情報を得た。
その時は、この雑木林を必ず通る」
影山が地図でその場所を示した。
その後で五人の配置をきめた。
馬車に発砲があった後で、手代木は影山と一緒に馬車の横から扉を開けて、生死を確認し、留めを差す役になった。
打ち合わせが終わるとメンバーはバラバラに庵を出た。
手代木は影山に尋ねた。
「成功したら報酬は貰えるんだろうな」
「手代木さん。
心配しなくても大丈夫ですよ。
妹さんを医者に見せてあげられますよ」
影山はニヤリと笑った。
三日後の夜
手代木は影山と配置に着いていた。
他の者も配置に着いて、内務卿が乗った馬車が来るのを待ち構えていた。
半月ではあるが出ているので、襲撃は割とやりやすいと思った。
雑木林の入り口に立っている見張りが提灯を大きく左右に動かした。
影山が緊張して言った。
「来るぞ」
手代木は刀の柄を握った。
一団の馬車の音が近づいてきた。
彼らの前に来たとき、仲間の一人が嘆願書を持って、先導の馬の前に飛び出した。
前の警備の馬が止まり、続けて内務卿の馬車も止まった。
仲間は警備の者に嘆願書を受け入れて貰うかで揉め始めた。
パンパンと銃声が鳴った。
仲間が馬車に向けて発砲した。
手代木と影山は馬車に向かって薮から飛び出した。
影山が御者に斬りつけた。
手代木は馬車の扉を開けた。
中には等身大の藁人形が置いてあった。
「頭。
やられた。
罠だ」
手代木はそう叫んだ影山に逃げるように合図した。
後ろから、馬に乗った追っ手が剣を抜いて近づいてきた。
影山がそれを見て叫んだ。
「引け!
引け!
逃げろ」
手代木は影山と一緒に林に逃げ込んだ。
後ろから、五、六人の軍服姿の兵士が追いかけてきた。
「撃て」
の合図が後ろから聞こえた。
玉が二人をかすめていった。
「うっ」
影山に当たったようだった。
影山が肩を押さえた。
押さえた手の間から血がにじんでいた。
「影山。
大丈夫か」
影山は痛みをこらえていた。
「手代木さん。
先に逃げてくれ」
「馬鹿を言うな」
兵士が五人ほど追いついてきた。そして、彼らを取り囲んだ。
じりじりと彼らの囲みを小さくした。
手代木の斬撃がうなった。
兵士達はその場にバタバタと倒れた。
手代木は影山に肩を貸した。
「これで、しばらくは持つだろう。
どこか隠れるところはないのか」