維新なんてクソ食らえ後始末が大変でしょ、手代木の巻き

「今、お茶を持ってきます」


葵が部屋を出て行った。


しばらくして、茶碗が割れる大きな音がした。


水島が行くと、葵が台所で倒れていた。


葵の額に手を当てると熱があった。


水島は近くの部屋に布団を敷いて横にさせると、急いで医者を呼びに行った。
「戻ったぞ」


手代木が玄関で声をかけると、男の足音が近づいてきた。


「お前は誰だ」


水島が言った。


「妹さんが倒れたので看病してます」


手代木は急いで奥に向かった。


布団に葵が寝ていた。


水島が後ろから言った。


「さっき寝たばかりなんで…」


手代木が振り向いた。


「とりあえず礼は言っておく。

一体、貴様は何者だ」


「申し遅れました。
下町新報の記者で水島と云います」



水島は手代木の脇に座りった。
「実は、今、寺子屋が官憲の取り調べにあっているのでいろいろ取材していまして、たまたま、おじゃましたら、妹さんが倒れたので医者を呼んだりしてました。

少し、落ち着いたら話しを聞かせてくれませんか」


手代木は答えた。


「すまないが、今日は無理だ。

後にしてくれないか」


その言葉を聞いて、水島は帰った。


次の日の昼過ぎに、水島が手土産を携えて現れた。


手代木は彼を居間に通し取材に応じた。

官憲が来たときのことと、連れて行かれたときのことを話した。


水島は熱心にメモを取った。


「手代木さん。

これが記事になれば政府の奴らも考えが変わりますよ」


「そうか」


「手代木さんは、

『ペンは剣より強し』

という言葉を知っていますか」


「どういう意味なんだ?」


「これからは民の声が世の中を動かす時代なんですよ。

昔のように剣をふるえばいいという時代は終わったんです」

水島は熱く語った。
葵がお茶を持って来た。


水島が声をかけた。

「大丈夫ですか」


「ええ。

兄がお茶も出さないですいません」


「まだ、無理はするなよ」


葵は兄に促されて奥に行った。


「妹さんは何かの病気なんですか」


「医者の見立てでは、血の病らしい。

時々、調子が悪くなる。

ひどい時は一週間くらい寝込んでしまう。

西洋の医者に見せればいいが、なかなかこれが無くてね」


手代木は手でお金を作ってみせた。
「水島君は新政府に賄賂がはびこっていうるのは聞いたことがあるかい」


「賄賂ですか?

無くはないですね。」


「内務卿が中心なのか?」


「内務卿は悪しき慣習は止めようとしているみたいですね」


水島は手代木の耳元で小声で言った。


「まだ、証拠は無いんですが、この一連の事件の裏にはある商人が関わっているらしいんですよ。

そしてその先には…」


そこまで言って口を閉じた。
水島は言い過ぎてしまったという顔をした。


「へぇー」


手代木はため息混じりに息を吐いた。


ついでに、代理屋のことを聞こうと思ったが、また、取材とかされると面倒なので止めた。


水島はそんなことを考えているとも知らず、下町で起きている事件のことをしゃべった。
林での腕試しの数日後、影山から連絡があった。


彼かの連絡はいつも突然にある。


いよいよ、内務卿の暗殺日が近いのだろう。


手代木は刀を持って家を出た。


妹はまた調子が悪くなって寝込んでいる。


寝ている顔を見てから、静かに障子を閉めて出た。


妹から説教されてから出かけるよりはマシだ。
この前、腕前を試された森の中の粗末な庵が打ち合わせ場所になっていた。


手代木が着いても、まだ打ち合わせは始まらなかった。


30分ほどしてからこの前の浪人が入って来た。


皆、覆面しているし、通称で呼んでいるので本名は分からない。


メンバーが揃ったようだった影山が話し出した。