維新なんてクソ食らえ後始末が大変でしょ、手代木の巻き

近くの客が彼らを見た。


「やばい仕事じゃないのか。

一体、どういう仕事なんだ」


「依頼を受けていろいろやるんですよ」


「まさか。昨日牢に入ったのもか」


「まあ、そんなところです。」


影山は酒を一口飲んだ。


「でも、組頭に会えて今度の仕事にメドがたちましたよ」


「組頭と呼ぶのは止めてくれ。

手代木で構わないよ」


「じゃ、手代木さん。

今度の仕事手伝ってくれませんか。

あの様子じゃ塾はもう続けられないでしょう」


手代木は黙った。
「俺は塾を閉める気はない」


影山はフンと鼻で笑った。


「本当に、何も知らないんですね。

今回の件は裏で色々動かないとダメなんですよ。

全ての寺子屋に官憲が入って、つぶされている訳じゃないんですよ」


「そんなことは知っている。

賄賂が用だってことだろう」


「知ってるなら、どうしてやらないんです?」


「俺たちはこんな時代を作ろうとしていたのか。

賄賂で物事が動くなら、徳川の時と同じではないか」


「相変わらず固いですね。

でも、お金は必要なんでしょ。

妹さんの病気を治すには、西洋医術じゃないといけないんでしょ」


「どうしてそれを知っている」


「色々と情報がありましてね」
影山は酒をついで間を取った。


「その習慣が、新政府の各所に入り込んでいるんです。

だからこんなに堕落してしまったのですよ。

世直しには、どうしても、手代木さんの力が必要なんですよ。

手代木さん。

とにかく世直しです。

お金はその報償ということではダメですか」


手代木はしばらく考えていた。


「どんな仕事なんだ」


影山は周囲を見回してから声を低いして言った。


「一緒に内務卿を殺ってくれませんか」
手代木は息を呑んだ。


「ただ事ではないな。

誰の依頼なんだ」


「手伝ってくれるなら、そのうち合わせあげますよ。

で、どうします」


影山は詰め寄った。


「ちょっと、考えさせてくれ」


「報酬は」


そう言うと影山は指を2本出した。


手代木が動かないでいると、さらに指を立てて三本にした。


「3円か?」


「まさか、30円ではどうですか」


手代木は頭を縦にふった。


その後、二人は鳥羽伏見の後のことを話し、酔っ払った。


手代木は頭の痛さで目を覚ました。


『家か』


昨日どうやって戻ったのか記憶が無かった。


「お目覚めですか」

葵が茶を持って入って来た。


手代木は茶を受け取って少し口を付けた。


「最近、体の調子はどうなんだ」


葵は笑って


「お気遣いにはおよびません。

お兄さま塾の方に専念して下さい」


「そうか。

余計な気をかけさせてすまんな」
手代木は昨日まだ終わらなかった教室の片付けをしていた。


表から声がした。


出ていくと、人力車が止まっていた。


「なんだ。

車屋か。

呼んだ覚えはないぞ」


車夫は構わすに言った。


「手代木さん宅はこちらでよろしいんですか」


「そうだ。

何か」


「一緒に来ていただけませんか」


「どこにだ」


「影山と言えば分かると言われました。
あと、刀があれば持ってきてとも言われております」
手代木は昨日の影山との裏の仕事を思い出した。


『いきなりか、早すぎるな』


と思った。


押し入れから、鍔に封印がある刀を出した。


葵がそれを見つけた。


「お兄さま。

刀をどうなさるのですか。

もう、人は殺さないと約束しではありませんか」


手代木は言った。


「お前のためだ」


妹はキッと睨んだ。

「私の病気は、不浄なお金で治して欲しくありません」


手代木は妹を置いて外に出た。


葵が半泣きの声で彼を呼んだ。


「お兄さま」
手代木が乗った人力車は街を抜け人気の無い林に入っていった。


「車屋。どこに行くんだ」


「こっちが近いんです」

車はどんどん林の奥に入って行った。
車が止まった。


「どうした」


手代木の車の周りには数人の浪人が囲んでいた。


車夫も刀を握っていた。


「死ねー」


浪人の一人が手代木に襲いかかって来た。


手代木は刀を抜いて一太刀で腹に一撃を与えた。


浪人は倒れた。


後の浪人達は一瞬ひるんだ。


手代木はその隙を逃さず、浪人達の間をすり抜けるとみね打ちにした。