さて、困った事になったぞ。
教室に戻った私は喧騒の中、机に肘をついて一人で頭を抱えていた。
別にお弁当を作ってきてあげるのは問題ない。そんなに手間が増えるわけでもないし、苦にもならない。
だが、貴志の好きな物なんて知らない私は何を作って行けば良いのか分からないのだ。せめて、好きな物じゃなくても食べれない物くらい言ってから去ってほしかった。
偏食家だったらどうしよう。約束通り作ってきたものの殆どが嫌いなものだった場合、箸も付けてくれなかったら流石にショックだ。
貴志のお昼御飯はいつもパンだったからなぁ。彼が偏食家である可能性は捨てきれない。
兎に角、パン以外のものを食べてる所を見た事がないので判断材料が少ない。
こんな事なら好きな食べ物の話題でもしておくべきだったと今になって悔やむ。
「貴志。何が好きなんだろ」
唇を尖らせて、眉間にシワを寄せる。
大体、何で私がこんな事で悩まなくっちゃいけないんだろう。
別にいつも通りのお弁当をちょっと量を増やして作れば良いだけの事じゃないか。
もともと作ってきてくれって言ったのはあっちだ。嫌いなものが一つや二つ入ってたって文句は言わせない。
「なになに。百合ったら噂の後輩君に何かあげるの?」
思い悩んでる私の事など気にもせず、クラスメイトの渦を掻き分けて、からかいモード全開で周りを取り囲む友人三人。景子、香里、真紀。何だかもう慣れてしまった光景だ。
だから、私は出来るだけ彼女達を喜ばせないように無愛想に答えた。
「べっつに~。ただお弁当を作ってきてくれって頼まれただけよ」
「きゃあ、何々それって愛妻弁当? あっつあつだねぇお二人さん。羨ましいわぁ。で、で、二人は何処まで進んじゃってるの?」
「強いて言うなら主人とペットの関係かな」
「……はっ?」
冗談で彼女達の冷やかしを軽く受け流す。