どうしよう。悪ノリしているとはいえ、此処で否定したら本当に真紀の気を悪くしてしまいそう。

それに今更、彼女達に私の気持ちを隠したって仕方がないだろうな。

どうせバレてる事だし今ここで否定しても何のメリットもない。


「……うん」


素直に頷くと、真紀が一歩退く。

やけにさっぱりとした顔――というより、ニヤついた顔で「香里」と、逃げたはずの人の名前を呼んだ。

ひょこんと教室の扉から姿を現す香里。

逃げたんじゃなかったのか。


「どう?」

「さて、巧く録れたかな」


真紀は制服の裏側にあるポケットからMDプレイヤーのようで違うような見慣れないコンパクトサイズの機械を取り出した。

ボタンを押すと、ちょっと雑音が混じっているが、機械から訊き慣れた声が――、



『貴志君のこと好きなんでしょ?』
『……うん』



「きゃあああああああああああ」


叫ぶ私。心の中までムンクの叫び状態。


「おっ、結構、巧い具合に録れてるじゃん」

「あ~、私も生で聞きたかったなぁ。百合、どんな顔してた」

「きゃあああああああああああ」

「もう、顔、真っ赤っかにしちゃって可愛いったらありゃしないわ」

「きゃあああああああああああ」

「「落ち着け百合」」

ペチンっと二人に頭を叩かれる。

未だに私、ライブで混乱中。

は、謀られた。アカデミー賞五部門獲得な勢いの名演技に完全に騙された。


「まさか、香里に彼氏がいるって話は……」

「うん。いる訳がない」


にっこり笑顔で答える香里。


「いや、胸、張って言う事でもないぞー」


お約束の突込みを入れる真紀。


「タッカラプト・ポッポルンガ・プピリットパロ(意訳:いでよ神龍 そして願いをかなえたまえー)」


錯乱する私。


「百合が壊れた……。お~い、しっかりしろー」

イジメだ。これ、絶対イジメだ。

修学旅行の夜、皆で集まって好きな子を順番で言っていかなきゃいけない時、一人目が告白した後、残りが「私達、好きな人なんていないよ」って、とぼけるくらい悪質なイジメだ。