「は じ め て の~♪ チュ~♪」


教室の扉を開けると、香里と真紀が私の姿を見つけるや否や目の前まで歩み寄り、小芝居がかった動作で抱き合いながらそんな歌を口にする。

それは兎も角、二人してこっちに唇を近づけてくるな。

知的好奇心旺盛な子供のように輝いている真紀と香里の瞳。

予想通り真紀が近くの机にあった布製の筆箱をマイク代わりにしてこちらの口元に近付ける。


「それでは百合選手に質問です。はじめてのチュウは何味でしたか?」

「本気で訊いてるんだったら良い精神科を紹介するわ」

「では、百合選手の告白に貴志君は何と答えられましたか?」

「ファンの方には申し訳ないのですがご要望には一切答える事が出来ませんでした」

「ちぇっ、つまんない」


石ころを蹴飛ばす真似をする真紀。

そんなに簡単に出来る事じゃないだろ。

と、さっきから気になってるのだが何か一人足りない。


「景子は一緒じゃないの?」

「景子は彼氏に逢いに行ってるよ~。景子といい百合といい、青春しちゃってるよね。青い春しちゃってるって感じだよね。私達にも素敵な出会いくれってんだよね~香里?」

「ごめん真紀。実は私、彼氏持ちだったりします」

「「ええっ!?」」


驚いたのは真紀だけではなく私も。

景子は三年続いてる彼氏がいる事は知ってたけど、香里に彼氏がいたなんて聞いてないぞ。