「起きた?」

「あの……何で俺、叩かれたんですか。っていうか、百合さん何か怒ってません? 笑顔なのに目が、目が笑ってねぇ」

「知らない」


そっぽを向く。何だ、この寸止めラブコメみたいな現実は。

少しでも期待した私が思いっきり馬鹿みたいじゃないか。

ふんっ、やっぱり神様なんていないんだ。もし、いるんだったら死んじゃえ。

頭の中には未だ鮮明に残る先ほどの滑稽な自分の姿。

うわぁ……やっぱ私の方が死にたい。

目撃者がいないのが唯一の救いだが、何ていう痴態を晒したんだ。

ばか。私のばか。


「えっと……取り敢えず、よろしくお願いします」

「え? はい。よろしくお願いします」

脈絡のない挨拶に虚を突かれたが、ついつい差し出された右手を握り返してしまう私。

流されてる私が言うのもなんだが、こいつ、まだ寝ぼけてる……。


「ほらっ起きて起きて。休み時間もう十分もないぞ」

「あ、本当だ。じゃあ教室に戻りましょうか。えっと……」

「どうしたの? ほらっ、立って」

何か考え事をしながら、ゆっくりと立ち上がる貴志。

私の顔を一度見たと思ったら何かを躊躇うような感じでまた下を向いてしまう。

数秒、思い悩んでやっと結論に辿り着いたのか、妙にさっぱりとした表情で顔を上げた。


「うん。そうですね。千里の道も百歩からですよね」


何が言いたいのかさっぱり分からないが取り敢えず、百歩が基準なら意外に早く到着すると思うぞ。