誰からだろう、と折りたたみ式の携帯を開く。

あ、真紀からだ。なになに?



『mission1

目の前の男の子にチューしろ(≧▽≦)☆』



メキッ――そんな擬音が聴こえた気がした。

うん。今の私の携帯を握り締める力を持ってすれば多分、林檎だって潰せる。

あいつらめぇ。ニヤケ顔の真紀の両隣でこれまたニヤケ顔の景子と香里の姿が思い浮かぶ。

絶対、からかってる。もしかして監視されてるんじゃないか。

きょろきょろと見回す。しかし此処は死角が殆どない屋上。唯一、屋上へと通じる扉も完全に閉まっている。

流石に監視まではないか。

っていうかそこまでしてたら悪趣味過ぎる。


「百合さん、その携帯のストラップ可愛いですね」

「ん? これ」


私の携帯に付いてる唯一のストラップ。それは修学旅行の旅先で買った小さな砂時計。

一往復に付き二十秒程度しか測れないので実用性はないのだが(砂時計に実用性も何もないと思うが)中の砂が、とても綺麗だったのでついつい買ってしまったやつだ。

空色の砂時計。確か、そんな商品名だったと思う。

青色の砂。今まさに私達の真上にある空と中の砂の色は酷似していた。


「この砂時計にはね、ちょっとしたおまじないがあるの」

「よくある商売戦略ですね。で、どんなのですか?」

「もう、貴志は夢がないなぁ……。あのね、この砂が百回往復した時に一番叶えて欲しい願い事が叶うっていうおまじない」

「百合さんも女の子だったんですねぇ」


しみじみととても失礼な事を言う。も、ってなんだ。も、って。今頃、気付いたかのように言うな。

勿論、私だってそんなおまじない、本当に叶うなんて信じてない。


「もしかしなくても馬鹿にしてる?」

「とんでもない。百合さんっぽくて良いじゃないですか。で、今まで何往復してきたんですか。その砂時計は」

「そんなの数えてる訳ないじゃない」


当たり前だ。信じていないものにそこまで熱中出来る訳がない。