部活~ウチらバスケ部~高校編      ファイナル


合宿も後、
明日の午前練習を残すのみとなり
皆にも、安堵感が、広がっていた。


しかし、疲れは、ピークに達していた。

そして、安堵感から来る気の緩みが、
その疲れを、さらに深いものに、していた。



夕食も済み、お風呂から上がって来た皆は、
部屋で、グッタリしていた。


  「ここの温泉、全然疲れ、取れへんわ」


  「この前は、取れるって、
   言ってたじゃん」


  「まっ、個人の問題ですわね」


  「しっかし、5対5は、キツかったね」


  「私、今日は勉強、やめときますわ」


  「ウチも、遠慮しとくわ」


皆、疲れすぎて、勉強する気には、
ならなかった。

すると、梨沙が、


  「華子でも、疲れるんだ」


  「そりゃ、人間ですもの。
   疲れますわよ」


  「華子、宇宙人かと、思ってたじゃん」


  「ウチは、スーパーマンかと思てたわ」


  「何、言ってますの。
   人間ですわよ」


すると、歩美が、佐紀を見て、


  「スーパーマンなら、
   ここに居るじゃん」


と、驚きの声を上げた。

皆が、佐紀を見ると、問題集を出して、
勉強を始めていた。


  「スゲー、サキ、疲れてないの?」


  「疲れてるけど、大丈夫」


  「無理したら、アカンでぇ」


  「うん」



桃子は、

  「じゃあ、私も、勉強しようっと。
   リサ、スラムダンク、出して」


  「そっちかい! じゃあ、私も」


  「私も、こちらの勉強にしますわ」


  「ウチも」


  「ハイ、どうぞ」


梨沙は、漫画の束を、
机の上に、ドンと置いた。

皆は、奪い合うようにして、それを取り、
読み始めた。


  「何遍読んでも、オモロいわ。
   サキも読んだら………」


そう言って、友理が佐紀を見ると、
佐紀は、机の上に、突っ伏していた。

友理は、驚いて、


  「サキっ!」


と言うと、その声に驚いて、皆も佐紀を見た

梨沙が、佐紀の所へ行き、


  「あ~あ、寝てるじゃん」


  「死んでるんや、ないやろな」


  「何、バカな事、言ってんの。

   サキ、こんなトコで寝たら……」


そう言って、梨沙が、佐紀を抱き起すと、
佐紀の口から一筋、ヨダレが流れ落ちた。


  「あ~ぁ、ヨダレ、くってるやん」


  「ちょっと、誰か、ティッシュ出して。
   それから、布団、敷いて」


梨沙は、テキパキと、指示した。

布団が敷かれると、


  「はい、そっち、足持って。
   そうそう、ゆっくりと」


そう言って、佐紀を布団に運び、寝かせた。

佐紀は、何をされても、目が覚めなかった。


皆で、佐紀の寝顔を見ながら、


歩美「よっぽど、疲れてたんだろうね」


雅美「キャプテンは、気を使うからね」


梨沙「サキは、頑張り過ぎるんだよ」


桃子「だよねぇ。“エッ、何でここまで”
   って思う時、あるもん」


友理「みんなで、
   気ぃ使わせんように、せな」


雅美「気を使わせる人が、いるからねぇ」


友理「誰やの、それ」


皆が、友理を見た。


友理「えっ、ウチ? ウチ、ちゃうでぇ」


友理は、慌てて、手を横に振った。

しかし、


友理「いや、そうかも」


と、神妙に言い直した。



梨沙「とりま、みんなでサキを、
   フォローして行こうよ」


華子「そうですわね」


梨沙は、ガッツ・ポーズをした。


  「よっし」


全員、


  「よっし」


友理「しぃーーー。
   せっかく、気持ち良う、寝てんやから、
   起こしたら、アカンでぇ」


桃子は、うなずきながら、小声で、


  「さっ、マンガ、マンガ」


そして皆、読書の時間に、戻って行った。



皆が寝るまでの間に、
佐紀の目が覚める事は、一度も無かった。


合宿、最終日。


朝、佐紀が目覚めると、布団の中にいた。

驚いて、体を起こし、
キョロキョロ、あたりを見回す佐紀。


  「えっ、なんで?」


思わず、言葉が、口をついて出た。

その声に、桃子以外の皆も、
次々と、目を覚ました。

友理が、佐紀に声をかける。


  「おはようさん」


  「私、勉強してたと、思うんだけど」


すると、梨沙が、起き上がり、


  「サキ、勉強しながら、寝てたじゃん」


  「しかも、ヨダレ、くってたんやで」


  「えー、ウッソー」


  「で、みんなで、運びましたわよ」


  「みんなぁ、ありがとぉー」


  「サキ、結構、重かったよ」


  「えっ、そんなこと、ないよぉ」


  「せやけど、ウチ、嬉しかったわ。

   サキも、スーパーマンやない。
   “ウチと同じ、人間や”って
   わかってんから」


  「同じかどうかは、疑問だけどね」


  「それ、どういう意味やの」



皆、朝の準備をして、ジャージに着替えた。

朝食の時間が、近づいて来たので、


  「じゃあ、モモを、起こさなきゃ」


佐紀がそう言うと、全員、枕を手に取った。

佐紀は、桃子に、声をかけた


  「モモー、朝だよー」


すると桃子は、ガバッと、跳び起きた。


  「なんだ、起きちゃったじゃん。
   つまんない」


歩美は、そう言って、振り上げた枕を、
下に置いた。

皆も、残念そうに、枕を置いた。


  「モモ。もうすぐ、食事だよ。
   準備して」


大食堂での、朝食。


大学生のテーブルでは、野村先生、三田、
キャプテンの佑香、マネージャーの久美子が
今日の練習について、話をしていた。


野村「だいぶ、疲れが、
   溜まって来てるみたいだな」


佑香「そうですね」


久美「高校生の子らは、手を抜きませんね」


三田「それが、あいつらの、
   いい所だからな。

   一人を、除いてはな」


久美「友理、でしたかね。
   あの子は、あれで、イッパイだと
   思います。

   いろいろ、文句を言う事で、
   自分を、奮い立たせてるのでしょう」


三田「さすが、マネ。
   よく、わかってるじゃないか」


佑香「最後、どうしましょうか?」


野村「そうだな。どうするかな」


野村は、三田を見た。


三田「もう、先生に、任せますよ」


野村「そうか、じゃあ、………

   大事な選手に、ケガをされても
   困るから、途中で切り上げて、
   花見にでも、行ってもらうか」


三田「花見、ですか。いいですね」


先生は、ニヤリとして、


野村「ああ、あの場所へな。

   桜が咲いているかどうかは、
   わからんが」


久美「じゃあ、午前のメニューで」


野村「ああ、午前のメニューを、
   早めに切り上げて、行ってもらおう」


久美「わかりました」


三田は、笑顔になって、


三田「ユリの泣き言が、聞こえるようだな」


練習は、ポジション別に、スクリーンから、
シュートへの持って行き方を、練習した。

また、速攻練習かと思っていた友理は、
楽な練習になったので、大喜びだった。


1時間くらい経った頃、


  「集合!」


久美子が、皆を集めると、野村先生が来て、


  「よし、この体育館での練習は、
   これで終わる。

   全員、帰る準備をして、
   玄関前に、集合だ」


友理は、これで合宿が終わったと、
またまた、大喜び。

三田は、そんな友理を、笑顔で見ていた。



全員が、玄関前に集まると、先生が、


  「よーし、荷物は、車に積んでおけ。

   いまから、花見に行く事にする。
   あすこの桜が、綺麗だそうだ。
   ちょっと、見て来い」


そう言って先生は、向うの屋根から、
少しだけ頭を出した小高い丘を、指差した。

そんなに遠くは、なさそうだ。

花見と聞いて、友理は、
少し楽しくなってきた。

ただ、大学生たちが、
あまり嬉しそうにしていないのが、
少し、気がかりだった。


  「いいな、昼メシまでには、
   帰ってこいよ」


友理は、“エッ”と思った。

時間は、充分にある。

“上で、宴会でもするのかな”と思った。


  「じゃあ、行くよ」


佑香がそう言うと、皆、走り始めた。


道は、丘に向かって、一直線だった。

少し上り坂になっていたが、
それ程、苦にはならなかった。

しばらく走ると、正面に、フェンスが見えた

フェンスまで行くと、
その向こうは、池になっていた。

丘は、すぐそこに見えるが、
池をグルリと回らないと、
丘へは行けなかった。

そして、その池の両端は、
遥か彼方に、見えた。


  「えぇー、ウッソォー」


友理は、自分の考えの甘さを呪いながら、
前を走る美智子の後を、追って行った。



丘は、昔、お城かあるいは陣屋だったのか、
上る途中の所々に、石垣が見られた。

友理が、頂上に着くと、皆、休んでいた。

桜はまだ、ほとんど蕾で、
何個かが、開いているだけだった。

佑香が立ち上がり、


  「やっと、来たね。
   じゃあ、帰るよ」


全員が、立ち上がった。


  「えっ、ちょっと、花見を……」


すると、佐紀が、


  「私たちは、十分、見たよ。
   さっ、帰るよ」


  「うわぁ~、サキ、冷たいわぁ」


  「下にある、井戸の所で、
   待ってるからね」


佑香がそう言うと、全員、丘を下りて行った

友理も、仕方なく、後に続いた。


丘のふもとに、井戸があり、その上に、
手押しのポンプが、据えてあった。


  「これ、田舎のおばあちゃんちで、
   見た事ある」


雅美は、そう言って駆け寄り、
ポンプを押した。

筒から勢いよく、井戸水が、流れ落ちる。

皆は、それを手ですくって、飲んだ。


  「うわぁ、おいしいー」


そう言って、皆、何度も、飲んでいた。


  「ミヤ、交代」


佐紀が替わって、ポンプを押した。

雅美も、美味しそうに、飲んでいた。


友理がやって来た。

友理も、手ですくって飲むと、


  「わぁ、おいしい~。
   ホンマ、生き返るわぁ」


そう言って、友理は、何杯も飲んだ。


  「ユリ、生き返った?」


と佐紀が訊くと、


  「うん、生き返ったわ」


と答えた。


  「じゃあ、行けるね。
   ユカさん、帰りましょうか」


佑香は、笑いながら、


  「サキちゃん、ユリちゃんには、
   厳しいのね」


  「そうなんですよ。ユカさん、
   何とか、言ってやってくださいよぉ」


  「いいんです。このくらい言わないと、
   聞きませんから」


  「ハハハ、じゃあ、行こうか」


そして皆、再び、走り出した。

美智子が、友理の肩をポンと叩いて、
走って行った。


  「ユカさぁ~ん」


そう言いながら、友理も、後に続いた。


合宿は、ケガ人もなく、無事、終わった。


佐紀たちは、帰り支度を整えて、
旅館の前に、集まっていた。


  「う~、重い!」


梨沙は、バッグを肩に、そして両手には、
買い込んだお土産を、持っていた。

バッグは、梨沙の肩に、食い込んでいた。

それを見た佐紀は、


  「そんな、マンガなんか持ってくるから
   重いんでしょ」


  「だって、教科書じゃん。
   それに、みんなだって、楽しんだし。

   モモ、読んだよね、華子も。
   ユリも、アユだって。
   だったら、手伝ってくれても、
   いいじゃん?」


しかし皆、知らんぷりをしていた。


  「それに、その、お土産。
   ちょっと、買い過ぎじゃないの?」


  「いいじゃん。これで、恩を売って、
   お年玉で、回収するんだから」


  「こりゃまた、気の長い話やわ」



佐紀たちは並んで、大学生に、お礼を言った


  「ありがとうございました」


佑香は、

  「みんな、頑張ってね」


美智子も、

  「友理、頑張るんだよ」


  「はい、頑張ります」