黒い普通車が遠くに見えてくると、それまで黙っていたつーちゃんが声を上げた
「パパ、つー降りる、しーくんと歩く」
その声に一度全員が立ち止まる
俺はなんだか気にくわなくて
「濡れちゃうよ、雨だから」
なんて牽制の言葉を吐き出していた
それでも無邪気に笑顔を浮かべるつーちゃんは「いいの!」と
「パパ!降りる!」
と父親を困らせた
しかし世の父親というのは娘に弱いもので、「気をつけて」と水の走ったコンクリートへと下ろした
覚束ない足取りで小さな青い傘のなかに入ってくる
「お手てつなごう」
俺は小さな頼りない、だけども酷く温もりの溢れる手を握った
それを合図にまた歩き出す
じわりじわりと心のなかに広がる悲しみは無理矢理見ないふりをした