私は仕方なく答えるしかなかった。




「別に何も…………」
「ふぅん。淋しい人だね。」



自分から声を掛けときながらその受け答えはどうかと思う。



確かに無愛想な返事をした私も悪いと思うが、特別何かしてた訳でも無いのが事実である。



「ほっといてよ!」



そんな冷たい言葉を吐き捨てて私は教室を飛び出した。



相談でも乗ってくれるのかと少しでも期待した私のバカさを心で笑った。




とぼとぼと私は誰も居ない家へ帰り着くのだった。




“ただいま”の声も反響もしない闇に飲まれていく。
これが我が家であり私の居場所である。




と言っても誰かがここだと認めた訳じゃない。



勝手に私が思い込んでいるだけで。








そして私は静か過ぎる部屋に入り電気も付けずにベッドへ倒れこむ。




そしてまだそのままの母の部屋へ飛び込んだ。
まだ母の匂いが残る部屋に私はただ安心の涙を流すのだった。





私の家族は母だけだった。



兄弟も居ないし父だって居ない。二人私が幼いときに離婚した。





今は独りである。










友達とは言うと
居ないに近い。



入学式のすぐ後に母が死んでしまったため学校に行きだしたのは5月ごろからだった。
その為私が通いだした頃にはグループがはっきり別れていた。



私は特別明るい方でも無いし人見知りがちでグループに入る勇気も沸かなかった。
だから未だに単独行動だった。




でも自由だしこのままでもいいんだ。



私はいつも言い聞かせていた。


もう淋しいのも慣れっこだった。




だから川井に話し掛けられたことが嬉しかった。でもそれは助け船ではなく通り掛かりの渡り船だった。





一時母の部屋で泣いた後私は部屋へ戻り、お風呂に入って何もせずに布団へ入った。




翌日重い気持ちのまま教室に入る。



しかしそこには違う学校生活があった。




「おはよー。相田さん。昨日はごめん!大丈夫だった??」
と声をかけたのは昨日の彼だった。



昨日の私の様子を見て心配してくれたのか、顔を見るなり謝って来たのだった。



「えっ?全然平気だよ。ごめんね心配かけちゃって。勝手に取り乱しちゃって。」



私は笑顔でそう答えた。と言うより彼の行動に驚きが隠せなかった。


すると彼は綺麗な笑顔を見せてそっかじゃ良かったと言い残し友達のもとへ戻って行った。


彼の後ろ姿をぼんやり見ながらふと我に返る。彼の行動にまだ頭が追い付かなかっ
た。


(あの彼が私を.......?)






半信半疑なままホームルームが始まる。
先生の話を初めて真剣に聞けなかった。



何を聞いたか覚えることなく一時限目が始まる。ぼんやりとしたまま一時限目の現社が
終わった。




するとまたあの声が私に話し掛ける。


「羅夢ちゃんいつも独りで淋しくない??俺等と話さない??」


と彼はニコニコしながら話し掛けてくれた。
でも.............


いくら私を気に掛けてくれたとはいえいきなり私が入っていいのかな?

私はそんな不安に返事ができないでいた。
それを見兼ねて彼は私の手を引っ張って教室を出た。


私の頭にはてなが浮かぶ。



(どうして廊下に??グループに戻るんじゃなかったのかな??)



「やっぱいきなり大勢と話せってのは無理があるよな.....ごめんな。でも一年間誰とも話さないのも虚しすぎると思うんだけどな。」







彼は提案するように私に言った。プレイボーイと言われている彼が本当は違うんじゃないかと思った。
でもプレイボーイだからこんなことができるのかもしれないとも思う。



あれこれ頭の中で考えていると彼はどうかしたのと心配そうに問い掛けた。私は慌てて口を開いた。



「あっ、ごめん。考え事してて....でもなんで急に私のことを気に掛けてくれるの?」



私はしまったと思った。あまりにも直球過ぎる。私は慌てて弁解しようとすると


「クラスメイトだし、いつも悲しそうな顔してるからさ。話し掛けづらいのかなって。大きなお世話だったよな..まぢでごめん。」



私は悲しくなった。理由の一つはこんなに私が顔にでやすいのかと言うこと。


そしてこんなに私が気に掛けられていたこと。


彼が私のことを見てくれていたこと。


そして彼の誘いにすぐ頷けなかったこと。


つい私は俯いてしまう。恥ずかしさと罪悪感でいっぱいになった。




「変なの。昨日は淋しい人だねって言ったくせに。」
可愛げが無い発言をしてしまう私がつくづく嫌になった。








でも彼はイヤその-.....と後ろ頭を掻きながら言い訳を探していた。



そんな彼が不思議で可笑しくなって
つい...




「ふふっ。言い訳なんて探さなくても目に有り余ったとかでいいんだよ。淋しい人だからあたしは。いいの1人で。今のグループ編成を崩したくないからさ.......」

だんだん惨めになっていった。淋しい人間な自分が。



「目に余るなんて言うなよ。つかいつ誰がそんな事言ったかよ。いつ誰が羅夢ちゃんを仲間外れで良いって決めた??確かにグループとかは決まってるかもしれないけど羅夢ちゃんが入ったことで崩れるなんて有り得ないでしょ。もっと早く声掛けてあげるべきだったよなぁ.....。」



と彼は申し訳なさそうに言った。そして次にはその顔はなくて....。





「つかさっき笑ったろ。人のこと。」



一転して悪戯な笑みをを浮かべる。



私はいや、そのと後退りする。






しかし彼は何もしてこなかった。







それどころか、
まぢ羅夢ちゃんのリアクションうけるなんて腹を抱えて笑っている。



いつのまにか名前で呼んでるし。




私は虚しさを感じ逃げようとした。