あなたに一言だけ伝える事ができるなら
私はこの気持ちを伝えたい。
あの時に私を見捨てたりしなかったこと。
私をずっと支えてくれたこと。
限界に近い体で私を守ってくれたこと。
涙を決して見せなかったこと。
あなたは私の居ないところで泣いてた。でもそれはあなたが強い存在の証拠。見せない涙に込めた思いはきっと、
今の私の大きな支えになることでしょう。幸せをありがとう。
この気持ちを“感謝”としてこの歌を大事にするよ。
私のママが亡くなって半年がたった。
季節はそろそろ秋を迎え残暑が残るもののだいぶ過ごしやすくなった。
そんな私はだいぶ慣れた教室で澄んだ秋空を見つめていた。
相田羅夢(アイダラム) 高校一年生
親戚の支援のおかげで入れたこの学校で私は1年目の秋を迎えた。
しかし今年の秋はどんなに澄んだ秋空を見ても心に何も響かない。
私の心にはぽっかりと穴が開いてしまったように何を見ても心に留まることなどなかった。
むしろ季節さえどうでもよくなってしまって今もただぼんやりと眺めるだけだった。
どのくらいこの教室に居ただろう。
教室には私だけでグランドからは運動部の掛け声が聞こえる。
静かに私は席を立ち帰ろうと鞄を肩にかけた。
すると勢いよく入り口のドアが開かれた。
そこにはクラスメイトの川井慶介(カワイケイスケ)がいた。
そんなに急いでいたのか額から汗を流している。
彼はクラスでは勿論学年で噂のプレイボーイ。
コロコロと彼女を変えては短期間で別れてしまう。
飽きが早いのか一人を好きで居られないのかあまり良い噂は立っていない。
本人曰く“ただいろんな女の子を知りたいだけ”だと言う。
まさに謎に包まれた少年である。
私もあまり関わりたくない。
と思っていたのにこのタイミングで鉢合わせは非常に虫が
悪い。
私はその場から逃げるように教室から出ようと走りだした時、声を掛けられる。
「独りで何してたの?」
私は仕方なく答えるしかなかった。
「別に何も…………」
「ふぅん。淋しい人だね。」
自分から声を掛けときながらその受け答えはどうかと思う。
確かに無愛想な返事をした私も悪いと思うが、特別何かしてた訳でも無いのが事実である。
「ほっといてよ!」
そんな冷たい言葉を吐き捨てて私は教室を飛び出した。
相談でも乗ってくれるのかと少しでも期待した私のバカさを心で笑った。
とぼとぼと私は誰も居ない家へ帰り着くのだった。
“ただいま”の声も反響もしない闇に飲まれていく。
これが我が家であり私の居場所である。
と言っても誰かがここだと認めた訳じゃない。
勝手に私が思い込んでいるだけで。
そして私は静か過ぎる部屋に入り電気も付けずにベッドへ倒れこむ。
そしてまだそのままの母の部屋へ飛び込んだ。
まだ母の匂いが残る部屋に私はただ安心の涙を流すのだった。
私の家族は母だけだった。
兄弟も居ないし父だって居ない。二人私が幼いときに離婚した。
今は独りである。