ちょっと低めのよく通る声が上から降ってきた。
 頭を上げるとそこには、後をつけていた彼が戸惑った表情であたしを見下ろしていた。

「あのさ…鵬貞の生徒?」

 襟元の赤いバッジからするに、あたしと同じ新入生だろう。

 「あっうん」

 何も無いところでこけたなんて恥ずかしすぎる!

 とっさに俯いてしまったあたしの心を読んだかのように、彼は一言。

「何もない所でこけたとか…恥ずかしいな」

 やめてください、いやほんと。 

「まあいいや。それより急いだ方がよくね?お互い」
「え?」

 再び顔を上げると、彼は苦笑いしながら時計を見せてくる。
 8時半には着かなければならないのに、もう8時20分。

「えっやばいでしょ!」
「うん、やばい。…ほら」

 焦るあたしに、彼はそっけなく左手を差し出した。