完全に途方に暮れた。
 とりあえず落ち着こうと思い、ぼーっと周りを見渡してみると、足下の道や近くの河川敷に、たくさんの桜の花びらが散っていた。
 茶色く変色したり、水面をただよったり、無惨に踏みつけられたり。
 様々な運命に散った花びらたち。
 その多さが気になった。

 ふと目を右に向けてみると。
 そこには、満開の桜の花びらをこれでもかとつけた桜の大木が、なだらかな坂の両脇にどっしりと立っていた。
 桜の木は、その先に20本も30本も続いている。
 そこだけ漫画やドラマの一場面を切り取ったような、美しい春模様が広がっていた。

「うわぁ…綺麗…」

 思わず声が出る。

 ふいに、ざぁっと強い風が吹いた。
 舞い散る桜の花びらが、踊るようにあたしを包み込む。

 その時、花びら達の隙間から、自分と同じ色をしたブレザーの後ろ姿がちらりと見えた。