この勘違い野郎は、誰より先に同級生の一大スクープを握れた優越感に舞い上がり、それを吹聴して周囲を動揺させることを楽しんでいる。
今は何を言っても駄目だ。
それに、誤解を晴らすには俺の家のことを全部明かさないといけないが、そんなことをこんな大勢に打ち明けたくはない。
「なんで?このままでいいの?」
よくない。
でも、今の俺に釈明は無理だ。
クラスメートの奇異の目なんて、瑣末なこと。
ただ、早乙女那美の反応が怖くて動けない。
背中がひどく冷える。
彼女に顔を向けることができない。
さっきの瞳、後ずさり。
どうしよう。
彼女に嫌われてしまった。
「ほら、言い訳しないのは認めるってことだ。おーい、いつもキャーキャー言ってる女子!今度からコイツのこと『可愛い』じゃなくて『斗馬さん』って呼んでやれよ」
それはそれは愉快そうに、その男子は廊下の向こうへ走って行った。
クラスメートも、次第に我に返り更衣室へと向かい出す。
隣の席から、パタパタと上靴の鳴る音が遠ざかって行った。
「あの野郎……!」
凌がすぐ傍の机に拳を叩きつける。
ものすごい音がしたが、それを聞いたのは俺だけだった。
たぶん、この嘘はあっという間に学園中に広がる。
もう、何もかもお終いだ。