「……なんだって?」
そいつの言っていることがよく分からない。
しかし俺が発したその小さな声を機に再び時間が流れ出し、周囲の人間がどよめき始めた。
彼女?
服織女くんに?
うそでしょ?
相手は誰なの?
疑問符の飛ぶ小声を耳が次々と拾い、焦りがこみ上げてくる。
待て待て待て。
相手は誰なのかって、聞きたいのはこっちの方だ!
「か、彼女なんかいないぞ」
「しらばっくれるなよ。俺、たった今靴箱の前で会ったんだ。すっげー美人じゃん!服織女お前、可愛い顔して隅に置けないなあ」
「何言ってんだ、訳分かんねえ!」
たいして話したこともないのに、その男子の俺に対する口調は慣れ慣れしい。
ひどく興奮している様子で、なかなか反論の機会を与えてくれない。
「隠すなよ、薄情だな。同棲してんだろ?彼女と」
途端に、ざわめきが悲鳴に変わる。
してやったり、と言わんばかりに男子の口角が上がった。
はっとして早乙女那美を見る。
目が合った瞬間、彼女が一歩後ずさった。
俺を映すその瞳に、いつもの温かな色がない。
違う。違うんだ。
「……うそだ」
「嘘じゃねーよ、証拠があるんだから。ほら、彼女からの預かりもん」
ひょい、と投げて寄こされたものを反射的に受け取る。これは。……