「あ。次の授業、体育じゃなかった?」
凌の視線の先には、渡り廊下を走っていく体操服を着た生徒がいた。
そういえば。
「面倒臭えなあ」
愚痴をこぼしつつ昼飯を早めに切り上げた俺達は、いつものルートをたどって教室へ戻った。
そしてすぐ更衣室へ向かうべく、机の横に引っかけてある体操服を取ろうとしたのだが。
「あれ?」
何もない。
なぜだ。
わずかの間に自分の今日の行動を脳内で巻き戻し、我が家の玄関まで行きついて、思い出した。
「……しまった……」
靴を履くときに体操服を入れたバッグ手放して、そのまま玄関に置きっ放しにしてきてしまったらしい。
参った。
なんて間抜けなんだ、俺は。
「服織女くん、どうしたの?」
机の横をのぞきこんだまま固まっている俺を不思議に思ったのだろう、早乙女那美が声をかけてきた。
「いや、その……」
体操服を忘れました。
そう言ってもたぶん彼女は笑わないし、逆に心配してくれそうな気がする。
でも、やっぱり格好悪いじゃないか。
曖昧に笑ってその場をごまかそうとしていたら、ドアが開く音がした。
やけに派手な音だった上に、その直後ドアを開けた生徒が大声を出したので、その場にいた全員がそいつに注目した。
「おい、服織女!お前の彼女に会ったぞ!」
教室が静まり返る。
一瞬、時間が止まった。