早乙女那美は授業中、赤いフレームの眼鏡をかけている。
授業が終わると、それを外して「ふぅ」と一息つくのだが、その仕草が堪らなく色っぽいというのを、俺は彼女と出会って間もないうちに発見した。
普段の可愛らしさとのギャップにぐっときて、以来これを観察するのが俺のささやかな楽しみになっている。
ストーカー染みているのは重々承知だ。
でも、実際に彼女をどうこうしたいとは思ってないんだから、このくらいはいいじゃないか。
話す機会はあまりない。
それでもいいと思っている。
ただ見ているだけで充分なんだ。
大袈裟なんかじゃない。
この四月から、早乙女那美の存在は俺にとってかけがえのない心の支えとなっていた。
「それで、あれ以来お父さんとはお話したの?」
中庭のベンチで昼飯を食っている最中、凌がさり気なく話を振ってきた。
あれ、とは、優子の友達だという小娘と口論した日のことだ。
「いや、話してない」
「まだできてないの?もうかれこれ一ヶ月になるよ。さすがにヤバいんじゃない?」
「しかたないだろ。親父あんまり帰って来ないし」
いても疲れて寝てるか、彩花さんと優子に構いっきりだ。