帰ると、優子が夕飯の準備をしていた。


「おかえりなさい」


また、あの煮え切らない味噌汁を作っているらしい。

それだけで陰鬱な気分になる。

凌は、歩み寄れと言っていた。

ならば、もっと火を通せ、味噌を入れろ、と言えばいいのだろうか。

……そんなこと言えるはずない。

俺はさっさと部屋に引っこんでしまおうときびすを返して、はっとした。


これって、逃げようとしてないか?


ずっと、嫌なものを回避したいという思いだけで行動していた。

でも、それは優子から逃げていたってことになるのだろうか。


足を踏ん張り、そっと振り返ってみると、料理の手を止めた優子がじっと俺の背中を見つめていた。


誰とだって上手くやれるのならそうしたい。

優子を、彩花さんを、傷つけたいだなんて思わない。

ただ、家に誰かいるというのが嫌なんだ。

嫌で堪らなくて、まだ何か考えられるような状態じゃない。


駄目だ。


やっぱり俺は、また逃げてしまった。