「なあに、斗馬クン。もしかして早乙女さんのこと……?」
面白いおもちゃを見つけたかのように、凌の顔がみるみる喜色ばむ。
「ちっちち、違う!」と咄嗟に否定してしまったが、それはどうやら失敗だったようだ。
「違う?何が違うの?ねえ教えてよ」
答えようがねえよ、俺だってよく分かってないんだから!
いや、分からなくもないんだけど……とにかく!
「なんでもないんだよ、ほんとに!」
「そうなの?初めて斗馬クンに春が来たと思ったんだけど。そっかぁ違うんだ」
まるで残念とでも言いたげに路傍に視線を流す、そのわざとらしい顔ったらない。
「でも、まあ違って良かったかもね」
「な、何が良かったんだ……?」
「だって早乙女さんって、毎日のように告られてるのに一度もOKしたことないんだって。あのサッカー部の伊東クンですら振られちゃったらしいし」
伊東って、凌と張り合うくらい成績優秀で、スポーツ万能な同級生だろう?
背も百八十センチ近くあるし、すっきりとした、でも男らしい端正な顔をしている。
俺が何一つ勝てそうにないあいつが駄目だったのか。
「……残念だった?」
申し訳なさそうにするな、今更なんだよ。
「別に。なんで俺が残念がらなきゃいけないんだよ」
ほんと。
残念で仕方ない意味が分からない。
腹も立たない。
ただひたすら自分が嫌で堪らない。
どんなに頑張ったとしても伊東や凌を越えられない自分の容姿に絶望してしまう。
俺が、もし親父に似ていれば。……
現実が見える。
気持ちが急降下していく。
この落差からして、自分が相当舞い上がってしまっていたことに気づく。
馬鹿みたいだ。
自分の状況を忘れたのか。
今は、それどころじゃないだろう。
それどころじゃ。
うつむいていると、上からぽつりと声が降ってきた。
「オレ、公園行きたいな」