俺はおかしくなってしまったのだろうか。

頭から早乙女那美のことが離れない。

彼女の笑顔を思い返しているうちに入学式が終わってしまった。


どうした、俺。

彼女は女だぞ。

俺を捨てた母親や、あの婆さんや、凌の母親と同じ、女なんだぞ。

なのに、なぜ彼女のことばかり考えてしまう?

押しこめてしまいたくなるほど恥ずかしい、でも面映ゆいこの感覚は何だ?

意味もなく嬉しくて、だからこそものすごく不安になる。


もしかして、これって。……


駄目だ。

言葉にしてしまったら終わりのような気がする。

認めたくない。

引き返せなくなるのが怖い、とても。


そう思いながらも、教室で新しい担任から今後の予定を聞いているときでさえ、俺の意識は隣の席へ行きっぱなしだった。

だから放課後、帰り道で凌が今朝の約束を果たしてくれる段になって、真っ先に出してしまったのが、この話題だった。


「早乙女さん?知ってるに決まってるじゃん、学園のアイドルだもん」


「そう、なのか?」


「斗馬クン知らなかったの?三年間もあんな可愛い子に気づかなかったとか、どんだけ世間に興味ないのさ」


返す言葉もない。


「早乙女さんって言えば、入学したときから中等部・高等部の垣根をいとわず男子の注目の的だよ。容姿もさることながら性格もすっごく良くて、早乙女さんが悪口言ってるとこなんて誰も見たことがないってくらい。あれだけ可愛くて男にモテると僻まれそうなもんだけど、早乙女さんがすごいのは女子からも好かれてるってとこなんだよね。人柄の賜物だよ」


そうだろう。

だって全身から癒しのオーラが出まくっていたからな。

女が苦手な俺でさえ拒否反応を起こすどころか好印象を持ってしまうくらいなんだから、そりゃあモテて当然だ。

そうだよな、そう……って、なんで俺はこんなに落ちこんでるんだ。