そういえば、女子からこういうふうにまともに話しかけられることって珍しいな。
慣れない上に、改めて見てみると目の前の彼女が非常に愛らしい顔立ちをしていたから、この教室に来て感じたのとはまた違う種類の緊張が走った。
大きくて黒目がちな瞳、白くてきめ細かい肌、桃色の頬、肩でふわふわ揺れる胡桃色の髪。
まるで男の理想の集大成が漫画や小説から抜け出してきたんじゃないかと思えるほどの美少女だ。
そして俺は気づいてしまった。
彼女が、俺を見上げている、ということに。
「あの、服織女くんって、すごく珍しい名字だよね。私、漢字がとっても好きなんだけど、服織女くんの名字、初めて見たとき読めなくて、悔しくって。あっ、悪い意味じゃないの。とても綺麗な漢字だなって思って……」
肩をすくませ、太腿の前でしきりに指を絡めながら、それでもしっかりとした口調で話す彼女を、俺はなかば夢見心地で見つめた。
「ごめんなさい、初対面なのにこんな話。でも、さっき掲示板で服織女くんの名前見つけて、同じクラスだって分かったら、お話できたらなって思ったの。だって、ずっと気になってたから」
最後は上目遣いではにかまれて、熱が一気に顔へ集中した。
彼女が気になっているのは俺の名字であるというのは分かっている。
その言葉に深い意味はないと。
でも、上目遣いへの免疫が無いに等しい低身長の俺にとって、今の彼女の攻撃は大打撃だった。
違う。
この子は、他の女子とは違う。
「あっ、私ったら自己紹介するの忘れてた。私は服織女くんのこと知ってても、服織女くんはそうじゃないよね。私、早乙女那美(さおとめなみ)っていいます」
わざわざ鞄からノートを取り出し、そこに書かれた名前を見せてくれる。
やや丸みを帯びた、読みやすい字。
「これからよろしくね」
『可愛い』という言葉は、俺なんかじゃなく、早乙女那美のためにあるのだ。
そう確信した。