本日、晴れて卒業式を迎えたにもかかわらず俺達に全く緊張感がないのは、ここ私立神世(かみよ)学園が中高一貫校であり、俺達は中等部卒業生であるからだ。
中等部を卒業したって、春から同じ敷地内にある高等部の校舎に移動するだけでメンツはほとんど変わらないんだから、学期が変わるくらいの感覚しか持てないのも無理はないだろう。
それに、人生の節目に当たってのけじめだとか、めでたい門出だとか、そういった気分を相殺するほどの大きな不満を俺が抱えてしまっているせいもある。
だいたい卒業式がよその学校より十日くらい遅いってのが気に食わない。
同い年の人間の大多数が思う存分羽を伸ばして青春を謳歌しているに違いない中、神世に通う俺達は昨日まで通常通りのぎっしり詰まった時間割をこなしていたんだ。
これじゃあまりに不公平じゃないか。
高等部へエスカレーター式の俺達には受験がなかったんだからおあいこだ、っていうのは間違っている。
小学生のとき、周りの奴らが鼻を垂らして遊び呆けていたさなか、俺達は熾烈な中学受験を乗り越えたんだ。
お釣りをもらってもいいくらいなのに、それどころか苦労を課せられてばかりいるような気がする。
さて、俺は式の間にあと何回溜息をつくんだか。
ふさふさの白髪頭の校長が、ステージの壇上で挨拶を始めた。
このご老人は喋るのが遅いくせに喋るのが大好きなのだ。いつもの調子でいくと、相当長くなるだろう。
それにしても、いつ見ても立派な講堂だ。
だだっ広いステージ、ビロードのクッションが心地良い座席、金の刺繍が施された濃紺色の緞帳、反響に優れデザイン性に富んだ特別な構造の壁……その辺の市民ホールより上等と言っても過言じゃない。
この学園は、こういった過剰なサービスで溢れている。
トレーニングジムが併設された体育館、運動場もサッカーと野球とハンドボールがいっぺんにできる広さがあるし、それとは別にテニスコートと陸上トラックもある。
もちろん校舎の施設も至れり尽くせりで……説明が面倒だ。