コイツは、なぐさめたくなると頬ずりをする、という可笑しな習性を持っている。

しかも対象は俺限定で。

一人っ子のコイツがお兄ちゃんぶりたいという心理の表れなのか、何にせよ出会ったときからこうなのだ。

小学生のときには微笑ましい光景だったかもしれないが、この歳になるともはやちょっとしたホラーだ。


「気色悪い!それいい加減やめろ!」


圧倒的な体格差に改めて己の小ささを思い知らされながら、それでも俺はめいっぱい抵抗をして、ようやくまとわりつく巨体を突き飛ばした、そのときだった。


「矢神凌(やがみりょう)!服織女斗馬!」


突然の甲高い声に、俺達は二人してビクッと肩を揺らした。


「もうすぐ式が始まるわよ。ふざけていないで早く廊下に並びなさい!」


何事かと思えば、教室の入り口で眼鏡におさげの学級委員長が目を吊り上げている。

もう教室には俺達しか残っていなかった。


「……怒られちゃったね、斗馬クン」


「お前のせいだぞ、凌」


てへへ、とたるんだ笑顔に反省の色はない。マイペースでいいな、お前は。