「じゃあ、いただきまーす!」
おいおい、これじゃ本当に給食だな。
俺以外の二人は彩花さんの号令に次々と続き、食事を始めた。
「あれー?斗馬くんもいただきますしなよ」
「……いただき、ます」
「声が小さいぞ。お前は今日から兄貴になるんだから、しっかりしろ!」
「そうだよ、お兄ちゃんだよ斗馬くん」
……やりずれえ。
拷問か、これは。
背中を丸めて弁当の出汁巻き卵を箸で掴んだが、持ち上げることができない。
食欲なんてわいてくるわけがない。
これからはこの四人、もしくは親父を抜いた三人で毎日この状態になるのかと思うと胃が岩のように硬くなる。
でも溜息をついてよさそうな雰囲気ではない。
「今日は忙しくて作れなかったけど、明日の朝からは出来るだけ私がご飯作るからね」
「彩花ちゃんの手料理を食べて出勤できるなら、俺、いくらでも働けそうだ!」
「そうだよー。斗馬くんと優子が良い大学に行けるように、私達がんばらないと!」
「いつかマイホームも建てたいしな」
「もう、真人くんってば夢が大き過ぎだよー」
和気あいあいの会話の中、彩花さんがマイホームに関しては否定的な意見だというのを俺は耳聡く拾い上げた。
それは子育てしている親としての現実的な金銭感覚からくる意見なのか、それともやはり親父とは添い遂げる意思がないことの表れなのか。
無邪気に笑う彩花さんは、その見かけのせいでまったく腹が読めない。
そこはかとなく恐ろしくなって彩花さんから目を逸らすと、すぐ隣の黒く透き通った瞳が俺を捉えていることに気づいて心臓が跳ねた。
優子が、ものすごく俺を見ている。