『服織女・龍ヶ崎』


カオスだ。

近所のコンビニで夕飯を調達してきた俺は、ドアの上でやたら存在感を発揮している真新しい表札を見て、げんなりした。

四人分の弁当の重さといい、家の中から聞こえてくる賑やかな声といい、我が家がすっかり変わってしまったことをまざまざと思い知らされる。

ドアノブがスムーズに回せないのは、錆びつきのせいか、引っ越しで扱き使われた疲れのせいか、それとも。


「あっ、斗馬くんお帰りなさーい!お使いご苦労さまでしたー」


「どうも……」


この玄関でこんな歓迎を受けたのは間違いなく初めてのことだ。

彩花さんのアニメ声もそうだが、こんなテンションに慣れることができるのか不安で堪らない。


「お腹空いたし早く食べよう!優子は自分の部屋にいるみたいだから、呼んできてもらっていい?」


やっぱり、全員そろって食べるのか。

人と飯を食うのは苦手なのに。

憂鬱だけれど、そんな笑顔で言われちゃ逆らえない。

彩花さんに弁当の入った袋を手渡した俺は、言われるがまま動いてしまうのだった。


玄関のすぐ左にあるふすまを開けると、そこはゴミ溜めだった元俺の部屋。

すっかり綺麗になって、もう机しか見当たらない。

服やらゲームやらは押し入れにすし詰めにしてある。

ちなみに例の段ボールは机の下の椅子の奥に押しこんだ。

油性マジックで『参考書』とでっかく書いておいたので、よほどのことがない限り中身が露見することはあるまい。


それはさておき。


この部屋、随分狭くなってしまったものだ。

布団一枚まともに敷けるかどうかも怪しい。

金魚は水槽の大きさに合わせて成長すると聞く。

そうすると、俺は絶対にこれ以上大きくなれない。

それもこれも、上下にレールのついた蛇腹のカーテンで部屋を二分されてしまったせいだ。