「……ごめんな」


「どうして謝るの?それより、頑張ってね。家族ができるって、いいことに決まってるんだから。いろいろ大変だと思うけど、きっと仲良くなれるよ」


お前は、こんなときにも笑えるんだな。

凌にとって、ここで過ごす時間は俺が思っているほど重要じゃなかったってことか……なんて勘繰りは、さすがに意地悪が過ぎるな。

せっかく笑って励ましてくれてるんだから、俺も平気な顔をしたい。


「言われるまでもねえよ。美女に囲まれて幸せになってやる」


強がった台詞を吐いたものの、顔の筋肉を動かすって、こんなに難しいことだったか。

引きつっているのをごまかすために、俺はすぐに頬杖をついて顔を隠してしまった。

それを見透かしてか、凌はクスッと笑って俺から目を逸らした。


「たまにはオレとも遊んでね。また、あの公園で」


鼻の奥がツンとして、うまく返事ができなかった。




それから凌は家庭教師の日が多くなって、最後にもう一度くらいのんびりさせてやりたいという俺の願いはついに叶わなかった。

親父に尻を叩かれた俺は、婆さんが出て行ってからまともに手のつけられていなかった部屋を掃除するのに追われ、年季のこもった汚れに四苦八苦していたら時は瞬く間に流れ、忙しさに目を回しているうちに、とうとうその日を迎えてしまったのだった。