「……本当、なんだね」


「ん?」


顔を上げると、凌がプリクラを見つめていた。

気取らない、ぼやっとした表情は見慣れたものだが、それに似つかわしくない深刻な目に、胸がざわつく。


「これからは習い事サボらないで、ちゃんと行くことにしようかな」


気のせいだろうか、大きいはずのその体が頼りなく見える。


「この人達に迷惑、かけられないもんね」


淡々とした声。

言わんとすることは、よく分かった。


大丈夫だって。

自分から進んで好きでもないことさせられに行かなくたっていいだろ。

一緒にゲームしたり、だらだらしたり、たまには本気でTOEICの問題集でスコアを競い合ったり、今までみたいに俺達らしく遊ぼうぜ。

平気だ。

何も変わりゃしない。


そう言ってやりたかった。

でも言えない。

そんなのは逃避にもならない妄言でしかない。

人の目がある場所じゃ俺達はこんなにくつろげないし、相手があの親子だったら尚更気を遣ってしまう。

もう、ここで二人こんなふうに過ごすのは不可能だ。

凌は、これから先どうするのだろう。

あの息の詰まる家に居続けるのだろうか。


自分に腹が立つ。

俺は、何もできない。

どうしようもない不甲斐なさに体の奥が焼けつくように痛み、そして気づく。


ああ、そうか。俺は凌を助けたかったのだ。


出会った頃は、誰かが傍にいてくれるということに救われた。

分かり合える奴がいて嬉しい、ただそれだけだった。

でも、俺は凌と過ごすうちにいろんな感情を覚え、教えられ、俺は変わったらしい。

今やっと自覚した。

救ってもらった分だけ、俺は何かを返したいと思うようになっていたんだ。

だから凌が母親の目から逃れ安心して羽を伸ばしていられるこの場所を提供できることが何より誇らしかった。

俺を救ってくれたコイツの役に立てること、拠り所になれることが、心底嬉しかった。

たぶん自分の心の平穏と同じくらい、大切だった。


それを失ってしまうんだ。