「そう毎度餌食になってたまるか」と、にじり寄ってくる凌の腹を足でぐいぐい押し返していたら、「あっ!」と叫ばれて思わず足を引っこめた。
「な、なんだ?」
「その二人と一緒に暮らすなら、斗馬クン引っ越しちゃうの?」
あまり考えたくなかった話題が、ついに出てしまったか。
俺は歯切れ悪く答えた。
「いや、それが……二人がここに引っ越してくるって話だ」
「えっ、ここ?」
だよな、驚くよな。
この狭い空間に新婚気分のカップルと年頃の子供二人、どうやって収まれというんだ。
居間以外に和室が二部屋しかないんだぞ。
「ここに四人って無理じゃない?」
「俺もそう思ってる。でも家賃のことを言われると、子供の俺は何も言えない」
ここは神世周辺の相場と比べて家賃が破格なんだ。
なんてったって公営団地だからな。
家が裕福な凌は、金がないという状態をあまり理解できないらしく、しかめ面をしている。
無理に分かれと言うつもりはない。
分からない方が幸せなんだから。
「たぶん俺は、押し入れかどこかに追いやられるんだろうな」
「押し入れって……どこの猫型ロボットの話なの」
「憧れた時期もあったが、実際はそんなもん宛がわれても嬉しくねえもんだな。というわけで、おそらく俺のプライベートスペースは激減すると思われる。そこで、だ」
俺は自分の部屋から一箱の段ボールを持ってきて、ちゃぶ台の上に置いた。
みしっ、と木の軋む音がした。
「これ全部、持って帰ってくれるか?」