疾風怒濤の日から一夜明け、俺は遅めの朝を迎えた。

胸糞悪い夢を見たような気がするが、どちらかと言えば今は目覚めたこの現実の方が悪夢だ。

寝癖がついてあちこち跳ねまくった髪を両手でぐしゃぐしゃにかき混ぜ、盛大な溜息をついて、俺は万年床から這い出した。


「あいたっ」


ゴミを掻き分けて作られた狭い通り道で、何かにつまづく。

打った右足の親指を気にしながら足元を確認すると、昨日居間から避難させたゲーム機が脱ぎっぱなしの服の山に倒れかかっていた。

それを見て、やらねばならないことを思い出す。

凌に事の次第を伝えなくては。


親父はもう仕事に出ていた。カレンダーをチェックすると、次に帰って来るのは十日後らしい。

そこにめいっぱいはしゃいだ花丸が咲いている。

こうしてこの居間で一人のんびりできるのも、あと数えるほどしかないんだな。

先日の卒業式より、よほど感傷的になってしまう。

どこか遠い遠い所へ行ってしまいたくなるから、あまり考えるのはよそう。


牛乳を一パック飲み干すついでに食パンを一枚平らげて、早速凌のケータイに電話した。

今時笑われるだろうが、俺はケータイを持っていないから、使うのはもちろん家の電話だ。

しかもダイヤル式の。

アンティーク、と俺は呼んでいる。

もたつくダイヤルを回し終えると、少しの間を置いて呼び出し音が鳴り出した。

が、三回鳴ったところで切れた。

まったく面倒くさい。

俺は手早く身支度を済ませると、ニット帽を深く被って家を出た。