「おい斗馬、お前優子ちゃんにお茶の一杯も出してなかったのか?気が利かないな」
「そんなに気を遣わないでよ、私達家族になるんでしょ?」
「そうだね……って、あれ?俺、涙が……」
「もー、真人くんったら大袈裟なんだから。それより座っていい?ゆっくりお話しよう」
「ごめんね、狭いし汚くて。引っ越したい気持ちは山々なんだが、斗馬の学校のこと考えるとな。ここから出て行くのは難しいんだ」
「大丈夫だよ、うちなんて九畳一間に二人で住んでるんだから。ね、優子」
「お構いなく」
「それにさ、大きい家より狭い家の方が、家族の距離が近くていいと思わない?」
「彩花ちゃん……!」
何だ、これは。
まるで出来そこないのロールプレイングゲームをやっているようだ。
プレイヤーには選択肢が与えられず、用意されたシナリオに沿わされ流されるしかない。
ただ映画やドラマを見せられているのと同じような感覚。
メディアの外にいる俺は、その世界に介入することができない。
彩花さんのおもちゃみたいな明るい笑い声と、やたらご機嫌な親父と、その二人を物静かに見守っている優子さんの横顔。
それだけが、印象として残っている。
あとは、はっきり思い出せない。
世界に置き去りにされた俺は、ただ目を開いてそこにあるだけの置物だった。