彩花さんだと名乗る人物と、優子さんを交互に比べてみる。

俺の目の前に立っている美少女が、彩花さん。

俺の向かいに座っている美人が、優子さん。

母と子。

いや、歳の離れた姉妹にしか見えない。

その場合、優子さんの方が姉なのは言うまでもない。


おかしい。絶対におかしい。


俺が明らかに混乱しているものだから、自称彩花さんがくすくす笑い出した。


「分かるよ、その気持ち。初対面の人はみんなそうなるから。ね、優子」


同意を求められた優子さんは、無表情のまま黙ってうなずいた。

親父はニヤニヤと傍観者を決めこんでいる。


「これを聞くと、きっともっと驚くと思うけど、本当のことだから信じてね」


親父と目配せをして「ふふっ」と笑い合うと、口に手を添えた彩花さんは、前かがみになって俺にぐっと顔を寄せ、あのね、と囁いた。




「優子はね、ああ見えて、まだ小学生なんだよ」




「へ……?」


とっさに優子さんへと視線が走った。

この人が?


小学生、だって?


「疑うのなら、これを見よ!」


楽しそうに彩花さんが俺に見せつけてきたのは、保険証。

生年月日の欄を確認すると、たしかに龍ヶ崎優子という人物の生まれ年は俺のそれより四つ多い。


「ちなみに、私は今年で三十になります。こんなナリしてるけど、おばちゃんなのよー」


いやいや彩花ちゃんは全然おばちゃんじゃないよ、という親父の反論が遠く聞こえた。


突きつけられた事実と視界からの情報が結びつかない。俺だって幼く見られるが、この親子と比べれば大したことじゃないように思えてくる。

あり得ないことの連続に、脳の情報処理能力が限界を超えてしまったようだ。