沈黙に喉を締めつけられて、そろそろ窒息するんじゃないだろうかというところまで追い詰められたとき、やっと親父が帰って来た。


「ごめんな、ちょっとごたごたしちまって……って、おい何だか疲れてないか?」


「まあ、な……」


遅くなったことを責める気力もない。

俺は多分に息を含ませて返事をした。

見慣れた顔に空気が緩んで、息がしやすくなった気がする。

はぁ、助かった……。

と、ほっとしたのも束の間。

居間の入り口に立つ親父の肩口から、ぴょんぴょん跳ねる金色が見える。


「親父、あの、後ろ……」


「ん?あぁ、ごめんごめん」


へらへらしながら二、三歩立ち位置をずらした親父の背後から現れたのは、小柄で愛らしい金髪の少女だった。


……少女?


「もう、真人(まさと)くん早くどいてよねー」


少女の口が動くのと同時に聞こえてきたのは、テンプレートのような高音のアニメ声。

一瞬どこから発せられたのか分からなくてテレビや天井を確認してしまったくらい強烈だった。

ちなみに真人というのは親父の名前である。


少女は俺の前にちょこちょこっと歩み出て、可愛らしい効果音が聞こえて来そうなお辞儀をして、こう言った。


「はじめまして、龍ヶ崎彩花です。よろしくね」


曇りない笑顔を前に、開いた口が塞がらない。

ちょっと待ってくれ。情報を整理させてほしい。

彩花さんとは、親父と同じ職場の人で、優子さんっていう成人した娘さんがいて、親父と付き合っている人だ。


一方、今その彩花さんであると名乗った目の前の人物は、鎖骨までの癖毛っぽい金髪を無造作に下ろしていて、ぱっちり大きな目をしていて、小顔ながらも頬は丸く血色が良くて、膝上までの淡いピンクのワンピースが良く似合っていて、まだどこか幼さをまとっている。


どう考えても、同一人物にならない。