じっと見つめていたら、優子さんが前触れもなく顔を上げて、いきなり目が合った。
見ていたのがバレたかと焦って目を逸らしたら動揺しすぎて想像以上に眼球が動いて、俺、今絶対に気持ち悪かったなと自覚してへこむ。
「あの」
「は、はいっ」
返事だけでも良くしようと肩を怒らせて腹から声を出すと、優子さんはおずおずと。
「お名前、聞いてもいいですか?」
ああ、名乗ることすら忘れていた……。
失礼千万、もう駄目かもしれない。
いや、この場合は嫌われた方がいいのか?
こんなガキと暮らしたくないと思ってもらえた方が、都合がいいじゃないか。
だいたい話をなかったことにしたいなら最初からこの人を家に上げるべきではなかったんだ。
でも今更気づいても遅い。
目上の人に対してあえて不遜な態度を取ることなどできない小心者の俺は、恐縮しきった小声で自己紹介した。
ところが、優子さんは表情こそ変えなかったが、それでも感慨深そうに「斗馬さん」と呟いたので、俺は慌てて身を乗り出した。
「そんな、さん付けなんて滅相もないです!」
「でも……」
「ダメ、絶対ダメですって!」
「……すみません」
伏し目がちに謝られて我に返る。
どんなに畏れ多くても、ここまで嫌がることはなかったんじゃないか。
おかげでまた沈黙が戻って来ちまった。
ほんと、とことん駄目だな、俺。
情けない。
俺は人と話すのが苦手だ。
こうなった原因は明らかだが、悔しいので言わない。
原因は何であれ、要は俺自身が弱いからいけないのだ。
自己嫌悪するのだけは人一倍だが、そんなの何の自慢にもならない。
結局、俺と優子さんはそれ以上一言も交わせなかった。