「今日もモテモテだねぇ、斗馬(とうま)クン」


そそくさと自分の教室に滑りこめば、待ち構えていたのは能天気な笑みを浮かべた幼馴染だった。

ちっ、見られていたか。

幼馴染と言えばなんだか甘酸っぱいことを想像したくなるが、いかんせんコイツは男だから色っぽいことはひとつもない、あるわけがない。

遠慮など遠い昔に忘れてしまった気が置けない仲ゆえに、俺は苛立ちを隠さない声色で言い返した。


「こんなのモテるって言わねえだろ」


「あれだけ女の子にキャーキャー言われて、モテてないわけないでしょ」


「だからあれはお前が思ってるようなもんじゃないんだって」


「そんな、照れなくてもいいんだよぉ」


肘でつつくというのは、人をからかったり冷やかしたりするときによく見る動作だが、そのつつく場所は概ね相手の腕や背中である。

しかし俺は今、思いきり横っ面をつつかれている。


「おい、これはつまり俺が並はずれたとびきりのチビだってことを言いたいのか?」


「だってぇ、斗馬クンのほっぺが丁度いい位置にあるから」


たしかに百七十センチ台半ばのコイツからすれば、十五歳女子の平均身長並みの俺は相当見下ろさなければならない。

それは事実として認める。

だが俺の顔はコイツの肩くらいの高さにはあるわけで、いくらなんでもこれは不自然だろうが。


「ふざけてんのか?」


三白眼で睨みつけてやると、ヤツは慌てて肘を引っこめた。


「ふざけてないよ、オレはいつも真面目だもん!」


何が「もん」だよ、ぶりっこしやがって。

でもコイツのこんなところも女子にとっては魅力的に映るんだろうな。

なんせコイツは所謂イケメンってやつだ。

俺とは違って正真正銘モテている。

体育の時間なんかによく聞こえる、あのとろけるような腹の底から出てくる溜息、か細くて甘ったるい称賛の囁き。

こいつの一挙手一投足に空気が色めき立つのだ。