「正確には、まだしない、だな。だって、お前達がいるだろう。俺達が良くてもお前達が嫌だっていうなら、諦めることも考えなきゃいけないって、彩花ちゃんはずっと気にしててな。

それなら様子を見るために、とりあえず一緒に暮らすだけ暮らしてみようって提案したら、やっと昨日賛成してくれたんだ。まあ事実婚ってやつになるのかな。

本当のところを言うと俺は今すぐにでも正式に結婚したいんだけど、もう嬉しくてたまらなくて、めいっぱい祝い酒ひっかけてきちまった。へへへ」


何を笑ってるんだよ。

話を聞きながら、俺はどうしようもなく腹が立った。


一緒に暮らすけど、籍は入れない。

それって結局は親父を捨てて出て行きたくなったとき、すぐにでも実行できるように逃げ道を作ってるだけなんじゃないのか。

それなのに子供を言い訳の道具に使うとは、女ってやつは本当に汚い。

だいたい親父は何だって性懲りもなくまた女を好きになったりしたんだ。

自分の母親や俺の母親で学ばなかったのか。

女は身勝手で、うるさくて、ある日突然いなくなっちまうロクでもない生き物なんだって。


「……何言ってんだよ。それでいいと思ってんのかよ」


「やっぱり嫌か?彩花ちゃんの娘さんは賛成してくれてるらしいから、あとは斗馬次第なんだが」


「俺次第って……」


いつの間に外堀を埋めていたんだ。

ここで嫌だと言ったら、まるで俺が我儘みたいじゃねえか。

もしくは二人の仲を引き裂こうとする悪者。