果たしてそれが酔っ払いの戯言なのか、否か。

判明したのは、親父がはっきりと覚醒した昼前のことだった。


「家族ができるんだ!」


今度は腹の底から力のこもった良い声で宣いやがった。

こんな声、酔っ払いには出せまい。

それでも認められない俺は、半眼で問いかける。


「まだ寝ぼけてんじゃないだろうな」


「ほんと、俺もまだ夢見てるんじゃないかって実感がわかないんだ。だって、あの彩花ちゃんと同じ屋根の下……」


「待て待て待て、親のノロケなんか聞きたくない!それよりまず事の顛末を的確に簡潔に説明しろ!」


「相変わらず斗馬は難しい言葉を使うなあ。俺の息子だとは思えない出来の良さ!」


「うるさい、早く本題に入れ!」


怒鳴られてもニヤニヤしたまま、完全に浮足立っている親父の脱線だらけだった話を要約すると、こうだ。




「職場の未亡人を弱みに浸けこんで口説き落とした、ってことか」




サイテーだな。


「おいおい、悪意を持って端折りすぎだろ!っていうか未亡人って言うな!それ『まだ死んでない人』って書くんだぞ!彩花ちゃんは明るく可愛く輝いて毎日を生きてるんだ!」


「分かった、その彩花さんって人を好きなのはよく分かった。お互い伴侶がいないんだから不貞にはならないし、付き合うのは別にいい。でも一緒に暮らすってどういうことだ。結婚するのか?」


「それは、しない」


あっけらかんと抜かしやがった。

一緒に暮らすのに、結婚しないってどういうことだ。