「どうしたんだよ、親父」


その大きな体をなんとか居間まで引きずってきて適当に転がした。

時計を見ると、四時を過ぎたばかり。

ついでにカレンダーにも目をやると、昨日の日付に丸がついていた。

ということは、親父は本来なら昨日帰って来るはずだったのだ。

それなのに、どこを飲み歩いていたのやら。


「何か仕事で嫌なことでもあったのか?」


水を持って来てやったが、言葉として聞き取れないようなうめき声を出すばかりで要領を得ないので、諦めてコップはちゃぶ台に置いた。


「まったく、人騒がせなおっさんだな」


俺は親父の横であぐらをかいた。

電気をつけそびれて仄暗い中、親父の顔を覗きこむ。

ちゃんと髭が剃ってあるな。

それに心なしか、酔っ払っているのを差し引いても顔の色艶が良いような気がする。

いつもなら髭は伸び放題で、ぐったり疲れて帰って来るのに。


「嫌なことじゃなくて、良いことがあったのか?」


「……斗馬ぁ」


お、反応した。

何か言いたそうなので、言葉が出てくるのを辛抱強く待っていてやると。


「俺は、やったぞ……」


「ん?何をやったんだ?」


「愛の、告白……」


「そうか、良かったな」


少し間があって。


「……は?」


ちょっと待て。このおっさん、今、何て言った?


「彩花(あやか)ちゃん……と、娘さんも……一緒に暮らせるんだ……」


「ちょ、ちょっと待て親父。何言って……」


焦る俺を遮り、緩み切った夢見顔で親父は言った。




「家族ができるんだ……」