「ほんとほんとー」
ほがらかに相槌を打っているが、状況を考えれば凌だって全然笑えない。
なんせ、ほんの小さな子供に「とりあえず大人の機嫌を取るためには勉強が一番」だなんて処世術を体得させるくらいの母親に育てられているんだ。
物心ついた頃から、家庭教師、英会話、習字、ピアノ、水泳、目が回りそうな過密スケジュールを組まれ、家で交わされる会話といったら成績か進学のことばかりらしい。
過剰な期待、方向性の間違った愛情。
全部受け止めていたら、どんな人間だって参ってしまう。
だから要領のいいコイツは、家庭教師が来ない日には習い事をサボって俺のところへ逃げてくるのだ。
金持ちだし、両親はいるし、でも居場所がない。
俺とは正反対で、だけど女親に恵まれていないという点では二人とも同じだと俺は思っている。
「あーあ。優しくて、我が強くなくて、おっぱい大きくて、オレのこと絶対に裏切らない超可愛い女の子、どこかにいないかなぁ」
「いねえよ。まるっきりファンタジーじゃねーか、それ」
「だよねぇ」
へらへら笑う凌に冷たい目を向けてはみたものの、俺だってそういう気持ちが分からないわけじゃない。
理想に適う完璧な女の子に言い寄られたら、付き合いたいと思えるだろう。
でも逆を言えば、そのくらいの女の子が現れない限り俺は誰とも付き合う気はないのだ。
それほど俺の女に対する不信感は強い。それに引き換え凌ときたら。
「でも、オレは諦めないぞ!白馬に乗ったお姫様が迎えに来てくれるのを待ち続けるんだ!」
ポジティブなんだか、楽天的すぎるのか。
どちらにしても、羨ましい限りだ。
「馬鹿言ってないで、もう一試合すんぞ。ほら」
横になったままごろりと転がって体を寄せ、無駄な肉のない頬にコントローラーを押しつけてやると、無邪気な笑い声がした。
窮屈な学校生活、止めどなく溢れる不満、どうにもならないコンプレックス、悪友とだらだら過ごす放課後。
これが、俺の今の全てだった。