「いくら褒めてごまかそうったって、そうはいかねえぞ!俺に勉強したいと言うように仕向けたのはお前だろ!しかも何が、おばあちゃんもにこにこになるです、だ。全然ならなかったぞ、この嘘つきが!」
「ちょっと、普通は子供とか孫が勉強できたら喜ぶんだよ、あのお婆ちゃんは規格外でしょ!お婆ちゃんって聞いて、あんなのを想像しろって言う方が無茶だよ」
「……だよな」
たしかに、凌の言う通りだった。
あの婆さんは、テレビとか漫画とかで見かけるお婆ちゃんとは別の生き物と言ってもいいくらい違ったからな。
「忘れもしないよ、小四のあの日」
「あの日か」
「そうそう。あの日も公園で一緒に勉強してたよね」
「漢検二級の問題集やってたな」
「四字熟語の穴埋め問題のところね。そしたら、ヒョウ柄のベスト着た金髪の女の人が歩いて来て」
「凌は、あのときが初対面だったんだよな」
「うん。知らない人が近づいてきたから、何だろうと思ったら」
まるで汚いものでも見るような目で俺達を見下ろして、こう吐き捨てて行きやがったんだ。
「「頭の良いガキは嫌いだよ」」
綺麗にハモって、二人して噴き出した。
「ずっと一緒に暮らしてた孫との別れの言葉が、それだよ!」
「まあ、らしいっちゃらしいんだけどな」
「身近にいた女の人があれじゃ、斗馬クンが女嫌いになるのも無理ないよね」
「まったく、ひでえ話だ」
笑って、ひとしきり笑って、笑い疲れて俺が寝転ぶと、凌も隣に寝転んだ。
急に居間が、しん、と静まり返る。
仰向けに並んでヒビの入った天井を見つめながら、ぽつりと愚痴った。
「俺達の周りって、ほんとロクな女がいないよな」