早乙女那美が、心配そうに俺を見つめている。
大丈夫だ。
こんなつまらない価値観のために、俺はもう振り回されない。
「そのまさかだよ。ごめんな、俺が最初からちゃんと説明しておけば、お前に妙な勘違いさせずに済んだのに」
「なんだよ……謝ってごまかそうたって、そうは……」
そのとき、遠巻きに見ていた女子の一人が声を上げた。
「もういいよ!服織女くんは妹だって言ってるじゃん」
それをきっかけに、次々とクラスメート達が続いていく。
「そうそう。あんたしつこいよ」
「つまんねーこと言ってんなよ」
「どこに住んでたって、服織女くんは可愛いんだからいいの!」
みんなに責められてオロオロしていたヤツは、ついには悔しそうに唇を噛んで黙りこんだ。
俺に向けられる視線が温かい。
まさか、みんながここまで俺のことを好意的に受け止めてくれるとは思っていなかった。
一方でヤツは可哀想なくらい孤立してしまって、こんな状況に追いこんでやるつもりなんてなかったから申し訳ないのだが、まあ自業自得の面もあるから、耐えてくれ。
「斗馬クン、すっごい格好良かったよ!」
がっしりと凌に肩を抱かれる。
早乙女那美が、極上の頬笑みでうなずいてくれている。
なんだ。
怯えることなんてなかった。
俺が思っているよりずっと、世界は優しいものだったんだ。