「斗馬クン、立派なお兄ちゃんになったね」
凌に柔らかい笑みで称えられ、俺は気恥ずかしくて背中を丸めた。
「まだまだだよ、俺は」というのは謙遜じゃない。
昨日のことで少しは楽になったかもしれないが、きっと優子が本当の自分を出せるようになるまでにはまだ時間がかかるだろう。
もう我慢しなくていいように、感情のままに泣いたり笑ったりできるように、あの子が子供らしさを取り戻せるように、もっと頑張らないと。
「そうだ、優子がお前に会いたがってるんだ。うちはいつでも大丈夫だから、家庭教師の来ない日にでも、遊びに来いよ」
「ほんとに?行く行く!笑ってる優子ちゃんが見たい」
凌が机をバンバン叩いて喜ぶ。
他人の席に勝手に座ってるくせに、人様のものをそんな乱暴に扱うなよ。
やめさせようと口を開けたところで、ふと視界が暗くなった。
見上げると、あのいつかの勘違い野郎が俺の前に立ちはだかっていた。
「やっぱりお前、同棲してんじゃねーか」
目つきは胡乱で、低い声には憎しみが満ちている。
凌のいる前で今更話を蒸し返してくるなんて、例の一件で懲りたんじゃなかったのか。