「わた、し 怖い です」
「何だ?何が怖いんだ?」
優子の体を支えながら俺は、今にも消え入りそうな声に耳を傾ける。
「こんなに、大切な人が、できてしまって 」
濡れた瞳がまぶたで隠れ、垂れてきた前髪で顔が見えなくなった。
「また うしなってしまうのが こわい 」
すがりついてくる指に力がこもる。
伝わる思いに胸がつまる。
彩花さんが死んでしまったら。
親父が、俺が、死んでしまったら。
父親の記憶と重ねて、優子は怯えていたんだ、こんなにも。
だけど、そんな必要はないんだ。だって。
「俺は、簡単には死なねえよ!」
優子が弾かれたように顔を上げた。
「大丈夫だ。誰も死なねえから。俺達は、お前を置いてったりしないから」
すると、凍りついたように動かなかった表情が一気に崩れて。
「おにいちゃん!」
顔をくしゃくしゃにして、優子は声を上げ泣き出した。
それはもう、小さな子供のように。
気がつけば、俺は優子を抱き締めていた。
大人と変わらないように見えていたその体は思いの他細くて、このお世辞にも大きいとは言えない腕の中にもすっぽりと収まった。
シャツの肩口が熱く濡れていく感触に、切なさと安らぎがこみ上げてくる。
よかった。
やっと泣くことができたんだな。
ずっと、ずっと我慢していたんだよな。
これまでの分も全部吐き出してしまえばいい。
不器用な嗚咽が止まるまで、俺はその華奢な背中を撫で続けた。