「え?」


態勢を整えようとするのを阻むがごとく、圧力をかけられて身動きできない。

なんと、俺は体当たりされて上に乗っかられていた。


「だいじょぶよ、いいこいいこよ」


そして力いっぱい頬ずりされる。

え、なんだこれ。

もしかして慰められてんのか、俺。


「ぜ、ぜんぜんへいきだぞ!とうさんがたまにあそんでくれるし」


「パパ?」


「うん。それにおんなはろくなもんじゃないから、いないほうがいいんだ」


「おー、なんだかおとなですのー!」


「そうでもないとおもうけど……ちょっと、どいて」


「あ、ごめんなさいでした」


やっと解放された。

びっくりした、こいつ変な奴どころか飛んでもなく変な奴だ。

間を取ろうと後ずさったのだが、その間はあっけなく詰められ、勢いよく言い寄られた。


「そうでもあるです、おんなのひとうるさいです!でも、ぼくいいことしってますの。ママ、いつもうるさいけど、おこるともっとうるさいなのです。だから、わらってるほうがいいのですよ」


「わらう……」


あの婆さんが笑うところなんて、想像もつかない。

いつだって眉間にしわを寄せてイライラしているんだから。

俺のいないところではどうだか知らないけれど。


「ママがわらうひみつ、おしえるです。きっとおばあちゃんもにこにこなるのです」


本当だろうか。

あまり期待はしていなかったが、まあ一応聞いてみると。


「それはですね、おべんきょするです!」


おべんきょ……あ、勉強か。

……勉強?


「あのねー、しちいちがしち、しちにじゅうし、しちさんにじゅういち!かけざんていうの、おぼえたらママすごくにこにこなの!あとね、なくようぐいすへいあんきょーとか、すいへーりぃべーぼくのふね!おなまえもかんじでかけるなの!」


さっぱり分からない、何の呪文だ。

それに俺の名前は字が難しくて大変なんだぞ。