「今日は楽しかったか?」


夕飯の支度に取りかかろうとエプロンを着ている優子に、俺は問いかけた。


「楽しかったです」


口ではそう言っているけれど、表情からもよく分からないけれど、今の俺には雰囲気で分かる。

やっぱり、あまり元気になってはいないようだ。

出かけて、早乙女那美とも友達になれて、結構気分が晴れたんじゃないかと思ったが、駄目だったらしい。

それほど昨日のことがショックだったんだな。

俺でさえ、どうにかなってしまいそうだったから。


どうしたら、その苦しみは軽くなる?

どうしたら、その悲しみは和らぐ?

俺なんかじゃ、何の役にも立たないかもしれない。

でも、だからって何もしないではいられないじゃないか。


鼓動が駆け出す。

こんなことは初めてだから、何て言ったらいいのか、このタイミングでいいのか、全然分からないけれど。


「優子、これ」


俺は、黄色いリボンのついた薄いピンク色の小さな紙袋を差し出した。


「斗馬さん……?」


とても優子の顔が見られない。

早乙女那美に囁かれたときと同じくらい心臓がヤバい。

腕が痺れる、早く受け取ってくれ。


ズボンの中に入れていたせいでしわの寄ってしまったそれが、そっと俺の手を離れた。


「あの……」


「開ければいいだろっ」


どうしてこういう言い方しかできないんだ、俺は!

でも恥ずかしくて正気を保つので精一杯だ。

ひたすらよそを向いて、耐え忍ぶ。

羞恥をエネルギーに変換できるなら、俺は今余裕で銀河の果てまで飛んで行ける。


クシャクシャと紙の乾いた音がして、止んだ。