世間話でもしようってことらしい。

いきなり現れて、何なんだ。

俺は返事をしなかった。


「こういうのを、もうしょ、っていうですよ。あっちいあっちいっていみなの」

しかし返事など必要なかったらしい。

一方的に話しかけてくる。

どうやら喋りたいだけのようだったので、しばらく放ったらかしていたら、次第に俺にも興味が向いてきたらしい。


「ねえ、どうしてここにいるですか?ひとりぼっちさびしくないですかよ?」


俺は隣にいるお喋りを、じっとりした目で見た。

回答を心待ちにするキラキラした目に、俺が映っている。

しかたなく、俺は一言だけ発した。


「かえりたくないんだ」


「あーっ、ぼくとおんなじですー!」


間髪入れずに返って来た同意に、耳を疑う。

絶対バカにされると思っていたのに。

驚いている俺に、更に予想外の言葉が降ってきた。


「ぼくもかえりたくないです、だってママがうるさいなの、だからぼく、きょうはママにないしょでぼうけんしてるですよ!きみもママがうるさいですか?」


だんだん声が大きくなってきて、俺が「しー」とたしなめると、「しー、でした」と思い出してくれた。

律義に両手で口をふさいでいる。

変な奴だが、悪い奴じゃないようだ。

俺は少しだけ安心して、会話してみようという気になった。


「おれにかあさんはいない。うるさいのは、ばあちゃん」


「ママいない?なんでいないですか?」


「……しらない。かおもしらない」


「そうですか……」


テンションが落ちていくのがありありと見て取れた。

お前が悲しむこともないだろうに。

申し訳ないような、改めて自分の置かれた状況を思い知らされて虚しいような。

気まずくなってうつむいていたら、がつんと衝撃を受けて体が傾いた。