今度はすぐに繋がった。

出てくれたのは、たぶん事務職の女性で、事情を話すとすぐに彩花さんと親父の予定を調べてくれた。


「今は、龍ヶ崎さんは関東、服織女さんは中越の辺りを走ってるはずです」


関東、中越、と脳内で反芻する。

事故があったのは、関西だった。


俺は礼もそぞろに電話を切った。


「大丈夫だ。彩花さんも親父も、あの事故には関係ない所にいる」


かすれた声で伝えると、優子は深く息を吐いて、魂が抜けたように呆けてしまった。

俺も全身の力が抜けて、しばらく立ち上がれなかった。


知らなかった。

誰かを失ってしまうことの恐怖が、こんなにも大きなものだったなんて。

母親を持たない俺と、父親を持たない優子。

立場は同じだと思っていたが、そうじゃなかった。

俺は母親に会いたいと思えば、いつだって探して会いに行ける。

俺の前からいなくなっただけで、どこかで生きてはいるのだから……たぶん。

でも優子は、どんなに父親に会いたくても会えない。

死んでしまった人間は、もうどこにもいないんだ。


数十分後に、二人からそれぞれ電話があった。

彩花さんは高速のサービスエリアで入浴中、親父は仮眠中で着信に気づかなかったらしい。

二人の声を聞かせると、優子は安心しきってすぐに眠ってしまった。

疲れた寝顔を眺めて思う。


泣かなかったな、この子。

泣くことさえできなかったのかもしれない。


優子は、本当に失うことを知っている。

その深い悲しみに触れた気がした。