「まあ、俺も久々に友達を呼んで勉強してみるかな」
「斗馬さんのお友達?」
「ああ。無駄にデカくてイケメンだけど阿呆なんだ」
「良い人なんですね」
「俺の話、聞いてたか?」
澄まして箸を動かす優子に、俺はただ苦笑いする。
「あっついな……」
蝉の声が止んだ。
『ここで、たった今入ってきたニュースです』
突如、緊迫したキャスターの声に、俺と優子はそろってテレビに目を向けた。
『高速道路で大規模な玉突き事故が発生しました。当局の取材班が移動中に偶然現場に居合わせています。今、現場と中継が……繋がりました、お願いします』
スタジオから画面が切り替わって現れた男性は、ラフな服装とは裏腹に切羽詰まった表情でリポートを始めた。
『数え切れないほどの車が連なって、所々で煙が上がっています。大変な状況です。危険なのでこれ以上近づけませんが、あちら事故のきっかけになったと思われる乗用車は中央分離帯につっこみ、それを避けようとしたのでしょうか、後続の大型トラックは横転して道路をふさいでしまっています』……
「大事だな、こりゃ」
加減を知らない子供がミニカーをもてあそんだあとのような現実味のない光景を、不思議な感覚で見入っていたら、カランと乾いた音がした。
優子が箸を落とした音だった。
「優子?」
呼びかけてもぴくりとも動かず、テレビから目を離そうとしない。
いつも白いその頬は、もはや青白く見えるほど血の気が失せている。
ただごとではないと感じた。
「おい、どうしたんだ」
身を乗り出して肩を揺すってやると、優子は震える唇からかろうじて声を吐いた。
「あのトラックお母さんのに似てる」